33.色彩
今日も、昼休みの部室に、二人きり。一緒にいる日は、あの日から増えた。本の貸し借りがなくても、来て欲しいってメッセージを送れば来てくれるし、言われたら来るようになったから。その目的なんて、言わないけど、お互い、分かっちゃってる。そのせいで、そういう風に部室に来るのは週に一回くらいだけど。
その時から、大分暖かくなってきて、旧校舎の空調も、部室ストーブも、もう必要なくなってくる。三ヶ月なんていつの間に過ぎて、もう桜の花もつぼみが出てきた。
「今日はどうしたんですか?……加奈子さんから誘ってくるなんて」
「確かに、あんまりなかったね。……その、今日はね、誘いたいこと、あるんだ」
「何ですか?」
イブにデートしたときも、普段部室で甘えたいときも、私からってことが多いし。それよりも、大事そうに抱えてくるお誘いって、一体何だろう。
「あのね、来週末なんだけど、うちの両親が温泉旅行行くんだ。商店街の福引ききでペアチケットもらったって」
「へー、そうなんですね」
「それでね、その間、紗彩ちゃんのこと泊めてもいいか訊いたら、いいって言ってて、……来ない?」
女の子同士なら、友達同士でもお泊まりはするし、加奈子さん家に遊びに行ったこともある。昔の少女漫画を読ませてもらったり、一緒にゲームしたり。……でも、そんな単純なものじゃないのくらい、わかる。もじもじして、ほっぺを赤らめて、……そんなんで、期待しないわけがない。ただの『お泊まり』以上のものを。
「え、いいんですか?じゃあ……」
「へへ、よかったぁ……、好きな人と、お泊まりしてみたかったんだ。まさか、女の子とするなんて思わなかったけど」
「私も、加奈子さんからそういうこと誘ってくれて嬉しいです。そういうの、苦手って言ってたから」
「もー、まだそれ言う?……そういうこと、したいって気持ちもわかるし、紗彩ちゃんとだったら、したいよ。……見るのは、まだちょっと恥ずかしいけど」
……かわいい。また、恋をしてるみたい。……何度だって、恋したいな、加奈子さんに。胸の中にある熱が、溢れかけてくる。
「加奈子さん、……甘えても、いいですか?」
「……いいよ、……私から、いい?」
「……はい」
目を閉じて、触れてくれるのを待って。いつもより高い位置に回される手と、甘ったるい声。
「好きだよ、紗彩ちゃん。……ちゅ、ちゅぃ、ん、はぁ……」
「加奈子さん……、ん、……ぁ、はぷ、ぅ……」
重ねられるだけの、優しいキス。それなのに、とろけそう。薄く目を開けると、おんなじ目をした加奈子さんと視線が重なる。それがわかると、くすりと笑ってくる。
「……なんか、クセになっちゃうそうだね。紗彩ちゃんが甘えてくれるのも分かるなぁ」
「……今日の加奈子さん、ずるいですよ、もう……。嬉しいし、……好き、ですけど」
「そういうとこも、素直で好きだよ?」
加奈子の中に花開いた気持ち、甘い。気持ちも、匂いも、温もりも、……キスだって。
このままその花に包まれてたい、蕩けてなくなっちゃうまで。……ただれるほど熱い恋心は、まだ私の中で燃えたまま。




