表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴生りに咲く花の彩り。  作者: しっちぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/33

32.熱情

「……おいで?」


 こんなに近いのに、あんなに、女の子同士のいちゃいちゃが苦手だったのが、自分から欲しがってくれるのに。……私の『好き』と、加奈子さんの『好き』、一緒だってわかったのに。最後につっかえてるものは、私のためらい。


「こういうこと、……したこと、あるんですか?」

「……ううん、初めて。紗彩ちゃんは?」

「ないですよ、私も。……本当に、私でいいんですか?」

「んもう……、紗彩ちゃんだからいいの」


 分かってる、私と一緒で夢見がちで、ロマンチックなのが大好きで、恋については、何より熱くて、素直な人なのも。そのせいか、紡ぐ言葉が、胸に刺さる。……ずるいくらいに。


「じゃあ、いきますよ?」

「……いいよ、紗彩ちゃん」


 目を閉じて、軽く顔を傾けて。私のこと、待ってくれてる。……かわいい。ためらう体を、恋心が突き飛ばす。


「……んっ」

「ん、……ふぅ」


 唇、しっとりしてて、あったかくて、ふにふにしてる。離しても、ちゅって鳴らないんだ。小説とか、漫画とかなら、そういう音立つのに。

 嬉しいのに、なんかちょっと寂しい。もっと、ほしい、かも。頭が考える前に、かすかな隙間がなくなってく。


「んぅ、……ちゅ、……ちゅぃ、んぁぁ、んん……、ちゅっ」

「はぁあ……、ん、……んん、……はぷぅ、んぅ、……っ、あ……」


 軽く吸うと、ちゅ、って音が鳴る。こうするんだ、音、立てるのって。……加奈子さんも、その気になってきてるのかな。……かわいい。漏れる息も、声も、自分から、ついばんでくるとこも。どんな顔、してるんだろう。唇を離して、薄く目を開けるた。そこにいたのは、熱っぽい、潤んだ目で見つめてくる加奈子さん。……見たことないくらい、色っぽい。背中に回された手、私のセーターをぎゅって握ってくる。欲しがってくれてるの、嬉しい。もっと、ちょうだい。


「ねえ……?」

「加奈子さん、もっと……っ」

「う、うん、紗彩、ちゃん……っ」

 

 戸惑ったような声、もう、ためらいなんて吹っ飛んだ。そんなので、止められない。


「ちゅ、……ちゅぃ、……ん、はむ、はぷ、……ぺろ、れるぅ、ぴちゅぅ……っ」

「ん、……んぅ、はぁ、ちゅ、んっ、んん、……ひぁ、あ、んく、れる……っ」


 どうして、なんだろう。いつの間に、舌を伸ばしてて、加奈子さんも応えて、絡ませてくれる。ちょっとざらついて、てろてろに濡れてて、……気持ちいい、好き。私じゃないみたいな声、出ちゃう。

頭の中、くらくらしてくる。初めてだからぎこちないのが、ちょっともどかしくて、嬉しい。


「はぁ、あ、ちゅく、……んぁあっ、ちゅぷぅ、んんぅ、ちゅ、……はぁ、ぁ……」

「ぁんっ、はぁ、……はぷ、ぅぁあ、れるぅ、んくっ、ん、はぁ、んっ、ぁ、はぁ、ぁあ……っ」


 息することも忘れちゃって、苦しくなって。離すのが、ちょっと寂しくて。こつんって、おでこがぶつかる。唇が離れてもまだ、息、乱れちゃってる。背中で、まだセーターをぎゅって握ってて、


「さあやちゃん……っ」


 とろけかけの頭が、ちょっとずつ、落ち着いてくる。……私、さっきまで、すっごいキス、しちゃってたんだ。また、熱くなる。今度は、ほっぺの奥が。


「……ねえ、加奈子さん」


 本当は、もっとしたかったかな。それに、想像で見たときみたいにとは言わなくても、もうちょっとだけでも、上手くできたのかな。


「何?」

「えっと、あの、……私と、……キス、するの、その……どう、でした?」

「え、……っとね、考えて、いい?まだ、頭の中ふわふわする……っ」

「いいですよ。……そんなに、ドキドキしてくれたんだ」


 頭の中で考えてた言葉、いつの間にか口から零れてる。私もまだ、頭の中、とろけたままなのかも。


「うん、すっごくドキドキしちゃった……、紗彩ちゃん、あんな積極的だって思わなかったから」

「そ、それはその、つい勢いで……っ」

「いいよ、その、……ちょっと強引なの、少女漫画みたいで、すっごくキュンってしちゃった……っ。それに、オトナなチューとかされるなんて思ってなかったし、紗彩ちゃんにそういうイメージないから、余計にドキドキしちゃって……っ」


 うつむきながら、もじもじと体を揺らすの、……かわいいって言葉しか浮かばなくなる。応えてくれたのも、本当に欲しかったから、……だったらいいな。


「私も、そんなことしようなんて考えてなくて……、加奈子さんが応えてくれて、すっごくほっとしたっていうか……」

「そうなんだ、……すっごく嬉しかったよ、その……、そんなになるくらい、好きなんだって、……それにね」


 同じことで不安になって、同じことでほっとして、紡がれる言葉の一つ一つに、落ち着いて、落ち着かない。

 

「……何ですか?」

「あのね、その、こういうことしてる人見て、逃げ出しちゃったって話、したよね……っ」

「そう、ですね」


 確か、加奈子さんが漫研に見学しに行ったってときの話。女の子同士のいちゃいちゃが苦手だっていうのが分かったのも、……そのせいで、恋心、抱えたままにしようとしてた理由も、それだっけ。


「見るのはダメなのに、紗彩ちゃんとチューすると、もっとしたいって思っちゃったの……っ」

「……嬉しいです、それだけ私のこと『好き』なんだって」

「うん、……好きだよ、紗彩ちゃん。紗彩ちゃんと、おんなじ意味で」

「……わかってますよ、……だから、すっごく嬉しいんです」


 溶けそう、キスした余韻が残ってるわけじゃなくて、加奈子さんの気持ちで。あったかくて、ふわふわする。キスした時みたいに体中燃えるような感じじゃなくて、心の中に、じんわり入ってくる感じ。

 予鈴が鳴るまで、結局抱き合ったままで。帰り際、どちらかともなくキスして、慌てて二人で走って戻って。……それでも上書きできないくらい、初めてのキスのドキドキは、まだ胸の中に残ってる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ