30.発露
お昼休み、旧校舎の中の文芸部室で、加奈子さんと二人きり。告白したときに比べたらまだマシだったけど、それでも落ち着けるわけがない。おかしいな、一番落ち着く場所だったのに。……加奈子さんに恋する前は。
椅子に座って向かい合う。前なんて見れない。どんな顔してるんだろう。どんな事、考えてるんだろう。
「ごめんね、返事するの、遅くなっちゃって。……その、いろいろ考えてたんだ、紗彩ちゃんの気持ち」
条件反射で体が震えて、続く言葉で止まる。心臓に悪いって、そういうこと言うの。分かってるから、その理由も。知りたいのはそこじゃない。分かってるくせに。
「普通に、友達……、っていうか、そんな風に仲良しだって思ってたんだ。でもね、紗彩ちゃんがそういう気持ちじゃないって分かって、……考えてみたんだ、そういう、友達同士じゃできないこと、したいって思えるか」
私と同じこと、加奈子さんもしてたんだ。そういうアプローチの仕方も、やっぱり似た者同士なんだ。それも、自分が悩んでるからじゃなくて、私がその気持ち伝えたから。ほっぺが赤くなっちゃってるの、見なくても分かっちゃうような、上ずった声。そこで、声が途切れる。……知りたい。喉からこぼれる声、抑えるなんてできなくて。
「……どう、だったんですか」
「……あ、あのね、その、デートとか、手つないだりとか、そういうのだったら、普通にできちゃいそうだなって。で、でも……っ」
どうしたって気になる、その先。そんなのより、もっと深いこと。女の子同士って、体の距離が近くても違和感がないから、そこまでなら、何も照れもなく想像できる。……だから、知りたいのは、その先。『恋人』とじゃないと、できないようなこと。
「……その、……あのね、……、チュー、するのとか、うまく考えられなくて……、その、イヤとかじゃなくて、あのね、考えるだけで、すっごいドキドキしちゃうから……っ」
「……嫌じゃ、ないんですか?」
「うん、……ねえ、紗彩ちゃんは、考えたことある……?」
嫌じゃないし、ドキドキする。何も、考えられなくなるくらい。そんな風に言われて、期待しないでいられない。回されたパスに、一瞬気づかなくなるほど。
「……ありますよ、……加奈子さんと、そういうことするの」
「……それで、どうだった?」
「それは……、すっごいドキドキしました。……加奈子さんのこと、そういう意味で『好き』って気づくくらい」
加奈子さんのこと、奪っちゃうような妄想なのは伏せたけど、言葉にしたのは、全部本当のこと。離しちゃっていいって思えた。加奈子さんも知りたがってて、知ってほしいなんて思っちゃったから。
まだ、顔見れない。その先の言葉、聴きたくてたまらないのに。




