28.燐光
部屋に帰って、部屋着に着替えることだけはギリギリ覚えてたけど、その後は眠気が勝った。自分のベッドに倒れ込んで、紅凪さんが帰ってくるまで思いっきり寝る。その後はノートを写させてもらって、いつもより大盛りにしてもらったご飯を食べる。これで、いつも通りの日々になる。……心の中で、まだチリチリと熱さを持ってる恋心以外は。
「ありがと、もう大丈夫だから」
「そう?……ならよかった」
ノートを返すとき、何かに気づいたようで、それに触れないでいてくれる優しさに、今は甘えることにする。ごめん、今は自分のことで精一杯だから。多分、後で返すから。
今日は図書室で借りてきた本の二冊目に、加奈子さんの本の残りも読んじゃおう。返すのはまだ先にするかもしれないけど、一巡はまずしておきたいし。明日は、散歩ついでに本屋さんにも寄ろうかな。加奈子さんから借りた女の子同士の本、普通に気になっちゃうし。あったら買おう。ちょっと気恥ずかしいかもしれないけど、今日のことに比べたら、ずっとまともなはず。
『来週には返します。一週しただけですけど、すっごく面白かったです』
恋心を知ってしまうと、少女漫画とかで登場人物が抱く気持ちが、痛いくらいに分かってしまう。……もう、戻れないかも。この気持ちを知る前には。知識だけはあったけど、知ってたのと同じようで、全然違う。そんな事を伝えても何もならないから、当たり障りのないメッセージで隠して。
『ありがとう⸜( ´ ꒳ ` )⸝
その頃には答え見つけたいな』
消灯時間のちょっと前に送ると、すぐに既読がついた。照れ顔の絵文字と一緒に返ってきたメッセージに、何となくほっとして、それと同じくらいそわそわしてる。いつも、よっぽど遅い時間じゃなければ一時間も掛からないで返してくれるけど、こんなすぐに返事が来るなんてそんなにないから。
『考えてくれて嬉しいです。お返事待ってます(o_ _)o』
……やっぱり、気にさせちゃうよね。私がもし告白なんてされたら、してきた人のメッセージは気づいたらすぐ見ちゃうだろうし。……それだけ、本気で考えてくれるんだ、私のこと。どれだけ待っても、『無理』って答えしか返ってこないと思ってたのに。
叶わない恋だって、勝ち目なんて無いのも、最初から分かってるけど、……もし、叶っちゃったりしたら。そんな期待が、恋心と同じとこでぐつぐつと湧いてる。最初から断ってくれない、加奈子さんのせいだから。ちゃんと考えてくれる、好きになった優しさに八つ当たりしても、燻った熱は収まってくれない。




