27.予感
吐き出した気持ちが、抜け落ちたみたい。まだ胸の中でくすぶってるけど、恋って名前がついたすぐ後みたいには燃え上がらない。
「あ、ごめん、ちょっとどいてっ」
私たちを追い抜いて、ぱたぱたと走ってく人影。繋いでる手に、その人よりもぎこちない走りで追いすがる人。走り去ってく姿に、昨日見た二人が思い浮かぶ。やっぱり、いちゃいちゃしてたのかな。……私たちも、……なんて思っちゃうのはきっと、恋しちゃったせい。
「私たちも走る?」
「……確かに、急いだほうがいいかもですね」
早歩きになって、ほんのちょっと私のほうが前に行く。まだ、顔の奥が熱くて、見せたくないよ。外の風が、火照り過ぎた体にはちょうどいいくらい。
二階に上がったとこで別れる。もう始業が近いからか、廊下ももう人がまばらだ。
「じゃあ、またね」
「はい、また。……返事、待ってますね、いつまで考えてもいいですから」
「優しいね、紗彩ちゃんは。……できるだけ、早く答えられるようにするよ」
落ち着いた気持ちが、答えを待つ余裕をくれる。加奈子さん、顔が赤い。ちょっと急いでたからなんて、言い訳にならないくらいに。そんなウブな反応しないで。かわいいから。今すぐ、知りたくなるから。
三階まで駆け上がって、教室に戻る。さすがに息が上がって、教科書とノートを出したあたりでチャイムが鳴る。
午前よりは、まともに授業を受けられた。少なくとも、自分のノートを見れば中身が大体わかりそうなくらいには。走ったせいか、お昼に食べたミントのタブレットのせいか分かんないけど、眠気もそんなに出なかったし。
ホームルームを終わって、紅凪さんが話しかけてくる。
「何か、ちょっとすっきりした?」
「あ、うん。ちょっとはね」
「ならよかった、ノート、大丈夫そう?」
「あー……、うん。大丈夫かな。もしかしたら、午後のも見せてもらうかもだけど」
顔色も、ちょっとは落ち着いたかな。五時間目が終わったとき顔も洗ったし。後は、あんまり食べられなかった分を食べて、いっぱい寝るだけ、かな。……恋って気づけたから、これくらい短く済んだのかな。それとも、恋したら、ああなっちゃうものなのかな。
「分かった、部活終わったら貸すよ」
「ありがと、じゃあ、行ってらっしゃい」
「うんっ」
送り出して、私もゆっくり帰り支度をする。もやもやは過ぎて、あとは答えを待つだけ。それでも、くすぶった感情が収まるわけじゃない。……加奈子さんへのを待つ間、平静でいられるわけないんだから。




