24.摩擦
「その……、言いたいこと、言っていいよ、……ちょっと、恥ずかしいけど」
いつもより、歯切れの悪い言葉。まだ、胸の中でざわついてるの、収まってないんだろうな。私の中の熱みたいに。
「じゃあ、その……、なんか、加奈子さんがそういうの読んでるの、意外でした」
「そ、そう、……だよね。私、そういうの苦手って言ってるし」
「面白かったですよ、……好きって気持ち、分かんないのに、相手のまっすぐな気持ちだけ伝わってくるの。……多分、『好き』になれないから、全部通ってくるのかなって」
「わ、わたしも、何となくそんな感じしたなぁ、主人公の子はドキドキしてないのに、なんか私だけキュンってなるみたいな」
いちゃいちゃとか、恋愛もののシチュエーションの資料ってだけにしては、ストーリーもちゃんと追ってるみたいで。……ちゃんと、読んでるんだ。
「自分で、続き買おうかな。まだ部屋の棚空いてるし」
「あのね、その……、私も、ちょっと続き気になっちゃってて、結局、買っちゃったんだよね……」
「ちゃんと読んでるんですね、資料として買ったっていうから、中身あんまり見てないのかなと思ってました」
「うん……、最初はそのはずだったんだ、そういうシーンもやっぱり上手かったし。でもぱらぱらめくってただけだったんだけど、いつの間に惹かれちゃってて」
それじゃあ、普通に私に薦めたいから入れてたって言われても分かるのに。それなら、入ってるはずじゃなかったなんて言わないはずだし。新しいことが分かってく度に、また疑問が湧く。
「それで、……その、私に薦めたいって思ってたんですか?」
「そうじゃないよ、本屋さんで見っけて、……その、一緒に貸した本も買ったんだけど、貸すとき、一緒に入れちゃってたみたいで……」
「いいですよ、そんなの。……でも、加奈子さんがそういうの読んでるって、結構意外でした」
「……だって、その……、さすがに私も免疫付けないと、どっかで倒れちゃいそうだし」
言い淀んで、ちまちまと出てきた言葉は、さっきと別の理由。……あ、でも、女の子同士でいちゃいちゃしてるとこに出くわして卒倒する姿は、想像できちゃうな。昨日だって、明らかに距離は近すぎたけど、一緒に歩いてるとこ見ただけで恥ずかしそうにしてたし。なんか、少女漫画でも出てくるな、学校とかでカップルがいちゃいちゃしてるとこに出くわしちゃうシーン。そういうことになるキャラって、大体、自分も見ちゃったようなこと、誰かとすることになって。……昨日から脳裏に浮かぶ情景を、慌てて消し去る。思っちゃ駄目だって、その相手が、私だったら、なんて。
「確かに、そうかもですね」
「その、何か他にない?さっきの本ので」
加奈子さんも、どこか慌ててるみたいな声。どんな顔してるかは、見れない。今、私の頬の裏側、すっごく熱くなってる。




