23.響動
「そうですね、……テスト終わったあたりだから、つい、……全部読んだわけじゃないですけど」
いつもだって、何周もして次の週には返すくらいには読んでるけど、さすがに、今みたく借りた次の日に会うことはなかったはず。
搾るように出した答え、嘘じゃないけど、本当のことは隠したまま。あの本のせいで、加奈子さんに恋したようなものなのに。その気持ちを伝えたら、簡単に壊れそうで。叶うはずないことも知ってるのに、忘れようとしても、忘れられない。……忘れようとすればするほど、より焼き付いてく。
「だよねぇ、私もテスト明けたときから読みっぱなしだよ」
「私、息抜きって読み始めちゃうと没頭しちゃったことあって……、我慢しなきゃって思うとストレス溜まるし」
「私も、一話だけ読もうって思ってたら、いつの間に読みきってたりするんだよね」
「加奈子さんもなんですね……、なんか、安心しました」
何気ない会話すら緊張して、何気ない接点にさえ、胸の奥が熱くなる。こんなに振り回されてるのに、加奈子さんは気づかない。気づかせたくない。その気持ちを知ってほしいのに、知ってほしくない。もし、それを知られたら、私たちの関係は変わっちゃう。……多分、悪い方に。似たもの同士の私たちの中で、一番の、それでいて致命的な、違うとこ。私は加奈子さんに恋をして、加奈子さんは、多分、私に恋なんてしないってこと。
「もー、それってどういうこと?……それでさ、何の本の感想話したいんだっけ」
「なんか、そっくりだなって。……えっと、この本なんですけど」
「そ、それ?……えっと、入れた覚えなかったんだけど……っ」
昨日の記憶で探り当てて、表紙をめくって確かめてから机に置く。加奈子さんも、何の本か確かめて、……目に見えて、顔が赤くなる。一番、らしくなかった本。
「加奈子さんらしくないなって、……そんなの、買うなんて思ってなかったから」
「そ、それはね、あの、ちゃんとワケがあって……っ」
まるで、高校生じゃ買えないようなえっちな本みたいに話して。少女漫画でも、……そういうのほどじゃないとしても、対象年齢が高めなのだったらえっちなことしてるシーンがだってあるし、あの本だって、せいぜいキスシーンくらい。……かわいいって思わせるの、ずるい。何も悪くないのに、
「そ、そのさ、私他の子に頼まれて女の子同士の絵とか描くでしょ?」
「そ、そうですね」
「それでさ、好きな作家さんが女の子同士の書いてるの知っちゃったから、参考になるかなって……、ほ、ほら、男の子と女の子だと、体の描き方ってけっこう違うしっ」
顔を真っ赤にして、言い訳をまくし立てる。中身は、私が思いついたような事だったし、加奈子さんが好きな作家さんだったら、私にも上手く刺さってくれるのは分かるけど、……そういえば、仲良くなったきっかけになったときは、いつも通り男の子と女の子のだったのに、どうして、急に。
「あ、あの、悪いって言ってるわけじゃないですから、……だから」
「そ、そう……だったね、それで、その……、感想、話したいってことだったよね」
急に、落ち着いた雰囲気になる。この中で何か言うの、ちょっと恥ずかしいけど、……もう、止まれない。進む道しか、ここには残ってない。




