21.狼狽
……私、寝てたんだ。あんなでも。目覚ましが、やけに耳に障る。
「おはよ、紗彩ちゃん」
「んんぅ……?あ、うん、おはよ……」
正直、あと二時間は寝てたいかも。寒いし、頭は重いし、しんどいし。でも、約束しちゃったしなぁ、加奈子さんと。多分顔もひどいことになってるし、念入りに顔洗っておかなきゃ。それでもダメだったら、メイクでもするかな。普段はしないから、上手くいくかわからないけど。
「昨日、すっごくうなされてたけど、大丈夫?」
「うーん……、大丈夫、かな。まだちょっと眠いけど」
「そう?しんどいなら、保健室行っていいからね?ノート取っておくから」
「んん、……ありがと、できれば頼らないようにするけど」
顔については何も言われなかったけど、後で一応顔見てみなきゃな。徹夜でもしたんじゃないかってくらい、頭が重くて眠い。いやいや身を起こすと、ひんやりした空気が体を刺す。もこもこした寝間着をそのままに、朝の食堂に向かう。おしゃべりがミキサーで混ざったようなざわめきは、妙な疲れと眠気に足を取られた頭には刺激が強すぎる。
めまいを堪えながら、食券売り場まで。朝ごはん、何にしようかな。正直、食欲なんて全然無いけど、食べないと頭も回らない。軽く、トーストと目玉焼きのセットだけ頼んで、二つ空いてる席に座ってもそもそと食べる。朝はいつも食欲が出ないって言っても、さすがにここまでダメなときは無い。……恋してるって、こんななんだ。抱く感情は、自覚した瞬間に重くなる。知らなかった気持ちに、名前がついた瞬間に。それが。お腹にも溜まってるのかな。
残しはしなかったけど、これ以上は食べれそうにないや。でも、この吐き気は、それだけのせいなんて思えない。今日のお昼休みは、早くご飯食べないとなのに。
「はぁ……、どうしよ」
「無理そうなら、休んだほうがいいんじゃない?」
「……あぁ、……そうね、無理そうなら保健室行くわ」
ふと呟いだ言葉に、思わなかった返事が来る。穏当な言葉を返すけど、その意味は、そうじゃない。時間を掛けそうだから、先に洗面台を譲って、返そうとしてた本を鞄に入れる。タイトルは分かったから、今度、自分で買おうかな。本棚には、まだ余裕もあるし。最悪、もう一個一緒に買おうかな。
着替えとタオルをクローゼットから出して、机に置くと、声を掛けられる。
「紗彩ちゃん、洗面所空いたよー?」
「あ、うん、わかった」
タオルを手に鏡を見ると、疲れ気味の顔がうつる。目の隈とかは出てないけど、とりあえず、顔は念入りに洗っておかなきゃな。何度か洗うと、ようやく血色もよく見える。
着替えるのに、ちょっと躊躇したのも、多分、知らなかった気持ちのせい。……漫画とか小説の主人公だって、こんなに乱されてたのは見たことないのに。




