16.激情
談話室にある自販機はもう、温かい飲み物で半分くらい埋まってる。でも、今はそんなのに手をつけられそうにないや。冷たいのがいい。それこそ、キンキンで、凍ってるんじゃないかってくらいに冷えてるの。一番冷やしてくれそうに思ったスポーツドリンクを買って、半分くらい一気に飲み干す。ちょっとは落ち着いたけど、まだ、顔の火照りは取れてくれない。
想像、できちゃうんだ、私。……加奈子さんと、キスしちゃうの。デートしたり、手を繋いだりは、友達同士でもできるって言い訳できる。でも、こんなの、無理だよ。恋人同士でしか。
「どうしよう、私……」
最上階の談話室、話し声よりも、テレビのほうがよく聞こえる。これだけ人がまばらなら、聞こえないよね。恋、なのかも。その可能性は、何度も考えて、……結局、考えないことにしてたのに。私に重ね合わせたあの本の女の子は、抱え込んだ気持ちに、どういう言葉を当てるんだろう。それが分かるには、多分、まだ時間がかかる。知りたい、追ってみたい。だけど、……私の中にある、まだ、名前の知らない気持ち、それが、大きく、重く、熱くなってくのはわかる。このまま膨らんでいったら、その子が結論を出すまでに、爆発しちゃいそうなほどに。
こぼれるため息は、何度吐き出してもまだ溜まってる。恋してる以外の理由で、こんな風になる気持ちを、私は知らない。それ以外に、あったりするのかな。それとも、その気持ちは、……やっぱり、そうなのかな。
好きです、加奈子さん。
あの想像でも、結局言えなかった言葉。心の中で、口に出してみる。途端に、心臓のあたりが、ハンマーで殴られたように痛い。思わず、胸を抑える。一瞬の痛みが抜けても、まだドキドキは収まらない。あの時、何気なく言われた時より、何倍も苦しくて、痛くて、熱い。
こんなの、もう、……恋でしか、有り得ない、……よね。少なくとも、私の見たり読んだりした話だったら、そういう結論にみんななってて。
私も、そうなのかな。この気持ちの名前は、『恋』、……なのかな、やっぱり。どこか、ごまかして逃げ回りたい頭を、重い想いが逃がしてくれない。だけど、……それが叶うことなんてないのは、もう分かってる。加奈子さんは、女の子に恋をしないから。優しくて、あったかい人だけど、……自分の恋心は、大事にしたいはずだ。あんなに恋に一途な人なんて、他にいないってくらいに純情だから。
でも、……どうしようもないよ、もし、そうだったとしても。私の知ってるその気持ちは、理不尽なほど突然やってくる。