11.交錯
「そろそろ、晩御飯食べない?」
「そうしよっか、さすがにお腹減ったし」
紅凪さんの提案に、私も乗っかることにする。普段は宿題をこなした程度じゃ疲れない頭も、今日はくたくた。期末テストの最終日でも、こんな風にはならない。頭の中にちらつく、加奈子さんという存在。その周りにあるのは、一体何なのだろう。その正体を心全部探してみても、ぴったり嵌まる言葉は見つかってくれない。
「今日の日替わりセットは何かなー」
「体あったまるのがいいわね、……って言っても、何がいいかは思い浮かばないんだけどね」
「あはは、わたしはもういっぱいあったまったし、……うん、やっぱり何がいいか選べないね」
「ここ、メニューもけっこうあるもんね」
正直、そんなことよりも、……知らない感情の名前のほうが、よっぽど私の中では大事。でも、お腹が空いちゃえば、何も考えられない。普通に定食を頼めばお味噌汁くらいはついてるけど、それだけじゃ、ちょっと足りないかも。とりあえず、考えるのは食堂に行ってからにしよう。食堂が混むのは、もうちょっと後になってからだし、考える時間もそれなりに取れる。
「でも、菊花ってもっと凄いらしいよ」
「私も直接見たことはないんだけどね、やっぱりすごいなぁ、菊花って」
「うん、……あ、日替わりはチキンステーキかぁ、これにしよっかな」
「私は味噌煮込みうどんにしよっかな、あったかそうだし」
ほかほかになれそうだし、あんまりお腹も減ってないから、これくらいがちょうどいい。紅凪さんがちゃっかり大盛りにしてたのも見えちゃったけど、競技かるたって意外と激しい競技だっていうのはどっかで聞いたから、紅凪さんが割と食べるほうなんだと納得する。普通の量でもお腹いっぱいにならない?なんて訊くのはやめておく。
空いてる席に並んで座るついでに、隣に並んでるお盆の上を覗いてみる。うわぁ……、やっぱり、ご飯多いや。それを見て満足そうなのも、ちょっと、私にはよくわからない。……いつもだったら、けっこう波長が合うけれど、細かいとこは、全然違うや。加奈子さんとも、違うとこは多いんだろうけど、……そういえば、全然一緒にいたことないな。ご飯も私が食堂で食べてるけど加奈子さんはお友達とお弁当を食べてるみたいだし、おうちに遊びに行ったこともない。紅凪さんとはクラスも一緒だから、ほとんどいつも顔を合わせてるからっていうのはあるけど、どういう人なのか、深いとこまではまだわかってないや。
「紗彩ちゃん、どうしたの?」
「ん、……ちょっと考え事。次書くの、どうしよっかなって」
「もう次の書くの?早いねぇ」
「全然だよ、わたし書くの遅いし、すぐ締め切りに追われちゃう」
そうだけど、そうじゃない。知らない気持ちに迷う話は、原稿としても面白そうだけど、……外から眺めるのと、私の中にあるものとじゃ、揺れ動く気持ちの振れ幅は、全然違う。