1.静穏
9期も参加させていただきました。今期もうちの子たちをよろしくなのです。
「ねえ、加奈子さん」
「どうしたの?紗彩ちゃん」
新歓と秋の星花祭の、部誌を出すくらいしか忙しくならない部室。それでも、話しをしたりゲームしたりだとかで部室はけっこう賑やかだけど、十一月の終わりくらいの、からりとした冷たい空気が包む中、部室のあるちょっと離れた旧校舎に、わざわざ昼休みに来るのは、私たちくらいしかいない。
「その……、いつも本貸してくれるのは嬉しいんですけど、なんでいつも昼休みなんですか?」
「あー、それね?そのさぁ……、ちょっと、いい?」
「ええ、いいですけど……」
お互いの紙袋に入ってるのは、私が持ってるのは新しく借りた加奈子さんの持ってる少女漫画で、加奈子さんには返したものと、私の好きな作家さんの新作の小説が入ってる。別に、いかがわしいものでも後ろめたいものでもないのに、こういうのを渡すときは、いつも廊下でも放課後の部室でもなくて、こういう時間。
「あのさ、星花って,女の子同士の……ほうが多いでしょ?」
「あー、……そうですね」
私自身、星花に入ってすぐの時は、いろいろな恋バナや噂に驚いたことも少なくない。『フツー』っていう感覚が、音を立てて崩れていった感じ。むしろ、女の人同士でお付き合いするほうが、当たり前なのかと錯覚するほどに。最近は、……私も、ふとそれが当たり前というわけじゃないことを、忘れそうになるけれど。
「なんというかさ……、こういうの読むの、私くらいなのかなって思ってたんだよね」
「ははは、そんなことはないと思うんですけどねぇ……」
とは言っても、……そう思っても仕方ないというほどに、この学校では男の人という概念が消えてしまっている。一応、先生や用務員さんの中にいないわけでもないけれど、どうしても存在は薄くなってしまう。
「でも、紗彩ちゃんがこういうの好きって言ってくれて安心したなぁ~」
「そうですか?なら、ありがたいです」
なんて強がっておいて、私も、先輩がそういうのを好きって知ったときにはちょっと安心してた。それを知ったのは、学園祭の部誌の挿絵で、女の子が女の子に壁ドンされてるのを書いてほしいなんてせがまれてて、どう考えても少女漫画の絵柄の漫画を横目に描いてるのを見たたとき。私から声を掛けたのって、多分この時が初めて。
「あ、もう教室戻らないとだね」
「本当だ、また、感想交換しましょうね」
「うん、じゃあまた放課後ね」
「ですね、……まあ、校舎まで一緒なんですけど」
「それもそっか。……あ、そうだ、何かほかにリクエストある?」
「うーん、……じゃあ、文芸部の中で起きてるのってありますか?」
「そうだなぁ……」
なんて言っても、帰り道もほとんど同じ。高等部の校舎に入るまでは、並んで歩く。他愛のない話が、ちょっと嬉しい。左手に持った紙袋の中の本も、けっこう中身はあるけど、それも軽く感じるくらいに。ほんの二十分もないような時間が、ちょっとした楽しみになってるのは、きっと、一番話が合う人だから。一緒にいると落ち着く理由は、きっと、それだけ。