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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

女として見て欲しいから……

作者: しいたけ
掲載日:2019/08/18

 黄昏時は大抵ビルの非常階段に座り込み、太郎と二人でとりとめの無い話で盛り上がるのが日常だった。


 太郎は中学からの付き合いで、ナヨナヨとした中性的な体つきと顔が特徴だ。料理と裁縫を得意とし、女子とも気さくに話をする。俺とは正反対な奴だ。


「あのね、今日はガトーショコラを作ってきたの。食べてみて」


 小さなチョコレートケーキの様なお菓子が太郎の鞄から取り出された。


  ―――バクッ!


「あーん! 一口で食べたらダメ~!」


「ん……確かに一口で食べるには味が濃いな」


 口の中に広がる甘ったるさを噛み締めると、俺は並々に注がれた紅茶を手渡された。


「ん、センキュ……」


「ふふ、勇君美味しい?」


「ああ。本当にお前は女みたいな奴だな。本当は女なんじゃないのかぁ?」



 ふと訪れた沈黙。太郎は少し俯きしどろもどろしている。触れてはいけない話題では無かった筈だが…………


「……あのね……」

「お、おう」


 いつもと違う妙な感じが俺にまで伝わり、何故かこっちまで緊張してしまう。


「今まで『何か変だなあ』位にしか思って無かったんだけどね……」

「…………」


「女の子と話していると『あ、同じ感じがする』って違和感無く話せるんだけど、男の子と話していると違和感しか感じなくなっちゃって…………その……今度病院に行こうと思ってるの……」

「…………おう、行ってこい」


「意味……分かってる?」

「分からんが、今までお前が選んできた事に間違いがあったか?」


「ふふ、そう言う所が【男の子】なんだね……羨ましい♪」

「な、なんだよ。どうせ俺はアホだよ……!」



 週末に病院に行った太郎は、週明けの非常階段で俺に全てを話してくれた。


「今度専門医に診てもらえる事になったんだ。……やっぱり性認知のズレがあるかも知れないって……」

「今流行りのトランスジェンダーとやらか?」


「んーん。別に流行ってるわけじゃないの。彼等は最初からそこに居たのよ。でもひっそりと生活をせざるを得なかった。それがようやく最近になって自分の存在をアピール出来る様になってきただけ……」

「そ、そうか……すまない」


 何時になく真剣な眼差しで見つめられ、俺は非礼を詫びた。


「あのね……服を買ったんだ。可愛いフリルのスカートを……」

「お、おう……」


「今まで着たくても着なかったけど、ちょっとココで着てみても良いかな?」

「お、おう……」


「……アッチ見ててね」

「……おう」


 俺は言われた通りに人気の無い物陰から、外の排気ダクトを意味も無く見つめた。太郎のスカート姿は正直想像するのも難しいが、きっと笑ってはいけない事だ。奴は今自分だけでなく世界と向き合っているのだから……。


「……良いよ?」

「お、おぅ……」


 視線を太郎へと向ける。俺は……正直何と応えるべきか迷った。何故ならばフリフリの可愛らしいスカートを履いた太郎は、違和感の塊でしか無かったからだ。


「すまん……良く分からん」

「だよね、ごめんね……」


「だがな……お前の顔はとても幸せそうだぞ?」

「……え?」


 どことなく吹っ切れた顔の太郎は、憑きものが落ちたかのように爽やかで優しい雰囲気を放っていた。


「そのまま少し歩くか?」

「知ってる人に会ったら嫌だから……」


「俺は良いのかよ」

「勇君には……見て欲しいから……」


「お前のファッションショーをか?」

「女として……見て……欲しいから」


「…………」

「意味……分かってる、かな?」


「分からん。だがお前がそうして欲しいならずっと隣に居てやるぞ?」

「……本当!?」


「ああ。だからココで何でも着ればいい」

「……やっぱり分かってない(笑)」


 太郎はスカートから戻ると、テテテと階段を駆け降りてコッチを振り返った。


「ボク決めたよ」

「?」


「女として生きるよ」

「ああ。お前ならきっと上手くいくさ」


 太郎は柔やかに笑っては手を振り家路へと着いた。俺も帰るとしよう……。




「ただいま」

「おかえり……アンタ何か香水の匂いしないかい?」


 帰宅直後に姉がクンクンと俺の服の臭いを嗅ぎ始めた。自分では全く気が付かなかったが、どうやら香水の匂いが染みついているらしい。


「太郎かな?」

「太郎ちゃん女の子みたいだからね~。アンタら2人並んでるとお似合いカップルみたいだわよ♪」


「…………姉ちゃん」

「な、何? 急に神妙な顔付きで……」


「太郎に『女として見て欲しい』って言われたんだが、俺は何と応えるべきかだったのだろう……」

「んん!? それって『告白』かい?」


「ああ。カミングアウトってやつだな」

「アホ。愛の告白、つまりはプロポーズだよ」


「……え?」

「『え?』じゃないよ。お前はその時何て応えたんだい?」


「……お前がそうして欲しいなら隣に居てやる。って」

「どうせ意味も解らず言ったんだろ?……我ながらアホな弟だ」


「……ああ。そうだな」

「…………」


 俺はとぼとぼと階段を上り、自分の部屋のベッドへと横たわった。眼を閉じるとスカート姿の太郎が鮮明に蘇る。


(やっぱり無理な物は無理だ……)


 俺はそのまま寝ることにした―――




  ――翌日――


 黄昏時の非常階段を上ると、そこにはスカート姿の太郎が居た。慌てて股を閉じてスカートを押さえる仕草は女の子そのものだ。


「勇君そのバットとグローブは何!?」

「気にするな。今日は野球の気分なんだ」


 いつもとは違って、その日は沈黙が多かった。目のやり場に困り太郎とあまり話すことが出来ない。何より話題を選んでしまうと尚更ぎこちなくなる。


「ココに来るまでに誰にも会わなかったか?」

「……何とか、ね」


「よし、今からお前の家に行くか!」

「えっ!?」


 俺は太郎の手を引き階段を駆け降りた。スカートを押さえながら太郎が後に続く。


「ほら、持ってろ」


 太郎にグローブを渡すと、俺は太郎の家まで歩き始めた。最後に太郎の家に行ったのはいつだったかな?


 大通りを太郎と堂々と歩く。たまに太郎をチラリと見る人が居たが、まあ今の所大丈夫だ。



「あれぇ!? 太郎じゃん!!」


 ようやく太郎の家の傍まで来たとき、チャラそうな男が一人ニヤニヤとすれ違った。俺は太郎からグローブを取った。


「何その格好!? もしかしてそっちの気があったの!? ハハハハハ!!」


 太郎が嫌そうな顔をしているという事は、こいつは敵だな。殺そう。


「おいお前。コレ持ってろ」

「は?」


 俺はチャラ男にバットを手渡した。そしてグローブを左手に着けると、思い切りグローブでチャラ男の顔面を殴り飛ばした!!


  ―――メキョゥ!


「―――あだぁ!!!!」


「勇君!?」

「大丈夫。野球をしているだけだ」


 俺は殴った勢いで倒れたチャラ男の襟を掴み前後に揺さぶる。


「忘れたか?」

「な、何を!?」


  ―――ボゴォ!!


「―――うぐぅ……!!」


 グローブでもう一発お見舞いする。これでツーアウトだ。


「お前は太郎を忘れた。そして二度とその面を見せるな……」

「ひっ! ひぇぇぇぇ……!!」


 襟から手を離すとチャラ男はバットを落とし、歪んだ顔を押さえながら覚束ない足取りで逃げていった。


「……勇君」

「野球をしただけだ。通報はされない……はず」


 バットを拾い、俺は太郎の家の玄関へと入った。



  ―――ガチャ


「あら、勇君!? 久し振りね!」

「お久しぶりです。そして今日からお邪魔します」


「え?」

「えっ!?」


 太郎は後ろで口元を押さえ驚き戸惑っていた。


「何でお前が驚いてるんだよ……言っただろ、『隣に居てやる』ってな」

「……ゆ、勇君……!!」


「あらあら太郎ちゃんったら……泣いちゃって……」


 玄関で泣きじゃくる太郎と太郎のお母さん。二人に挟まれ俺は何とも言えない心持ちになったが、これが俺の『応え』だ。


 『女として見る』のはまだ難しいが、今まで通り隣で一緒に話すことは出来るだろう。それから一緒に出掛けて、飯食って……風呂はどうするのか知らんが、隣で寝てやろう。


「……勇君……いいの?」


「俺はお前を……『太郎』を見ているよ。要望や意見は遠慮無く言え。俺はアホだから言われないと分からないからな!」


「……ふふふ、ありがとう♪ それじゃあ一つ……いいかな?」

「お、おう!」


「ギューッと……抱きしめて……」

「…………」


「……ダメ?」

「……お母さんの見てない所でな」


「……おっと、これは失礼を!」


 泣きながらニヤニヤと笑う太郎のお母さんは、鼻歌を歌いながら台所へと向かった。


 久々に入る太郎の部屋は女の子の匂いがした。思わず謎の緊張が全身を駆け巡った。


「ふふ、さ! さ! さ! さあ!」


 両手を広げ、俺を待つ太郎。俺は一歩一歩ゆっくりと太郎へと近付き、太郎と熱い抱擁を交わした。


「……先に言っておくぞ。泣くなよ」

「……グスン、遅いよ勇君……グスッ」


 俺は見事なまでにサラサラな太郎の頭を撫で、ゆっくりと包み込むように暖めた…………。

読んで頂きましてありがとうございました!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公素晴らしいなぁ。 こういう人が世間に多く居たら良いのにと思います。 ちなみにネタかどうかわかりませんが、ロシアでは野球がはやってないのにバットが売れるらしいですね。
2019/08/23 13:21 退会済み
管理
[一言] 太郎きゅうううううん!!!!! 太郎きゅんアリですね!!!w 勇君に現状恋愛感情がないのが逆に萌えます!w この二人に幸あれッ!
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