『疑念を抱く天使狩りの青年』
淡い栗色の、短く切りそろえられた髪。
鋭く澄み切った、偽りを許さないような真っ直ぐな青の双眸。
しなやかな肢体は猫科の肉食獣を思わせ、
陽に焼けて褐色に焼けた肌の上には細々とした傷があった。
今年で22歳になる天使討伐隊に所属する青年。
名前を、アリオス・レスペンドという。
狂った天使が天界から落ちてくる。
それは誰もが既に事実として知っている。
今更な事である。
そしてアリオスは、その天使を狩る、討伐隊の一員であった。
父譲りの華麗な剣技を披露する度に、
多くの仲間達から賞賛の声が挙がる。
いつもならば誇らしく受け止めるそれを、
アリオスは苦い思いで聞いていた。
彼の心にしこりを落としたのは、今日殺した一人の天使だった。
不思議な天使だった。
多くの討伐隊員達を傷つけ、殺した天使だった。
豪奢な黄金の髪と、翡翠玉のような緑の瞳をしていた。
少年なのか少女なのか、どちらともつかない容貌をしていた。
祝杯を挙げる仲間達の側を離れて、アリオスはその場所へと向かった。
天使を殺したその場所へ。
多くの仲間達の血がしみこんだ大地へ。
足を踏み入れたその瞬間、大地に散った羽を見つけた。
誘われるように、アリオスはその羽を手に取った。
血を吸って赤茶けた色になってはいるが、
それは確かに白い羽だった。
多くの者達を殺していた天使が、アリオスに斬り殺されるその瞬間、
まるで安堵するかのように微笑み、その瞳に知性が宿った。
それがあの天使の本性だったのだろうか。
自我を失って落ちてきた天使が、最後に見せた知性。
本来持つべき姿がそれであったのかと、アリオスは思う。
「……そもそも、なぜ、天使は狂うのか……。」
これまで、あまりにも当然であるとして、重く考えなかった事実。
困惑しながらもつぶやく彼の横顔は、静かだった。
動揺していながら、そこに浮かぶ表情は凪いだ海のようで、
羽を握る指先が震えていなければ、彼が動揺しているとは、
誰にもわからなかったに違いない。
これまで彼は、天使を狩るのが当然のことだと思っていた。
大切な人々を守るために、天使を殺す。
けれど不意に、それが大罪であるような気がした。
彼もこの世界に生きる人間である以上、
神と天使を崇め、敬い、祈りを捧げて生きている。
そうでありながら殺戮へと歩む自らの業深さを、
誰にいわれるでもなく、アリオスは理解したような気がした。
くしくも、一人涙する妹・フィアーラのそれと似た感情であるが、
彼はそのことを知りはしなかった。
ただ、自分がそれまでと同じように天使を狩ることができない。
その事実だけを、彼は胸の奥に刻んだ。
はらり。
木々に引っかかっていた羽が、アリオスの頭上から降り注いだ。
呆然と、彼はそれを眺めた。
美しいと、彼は思ったのだ。
まるで雪が降るようだと、そんなことを思いながら。
鼻をつく血臭と、血液を吸い込んだどす黒い大地と、
柔らかで穏やかな風と、降り注ぐ白い羽と。
どこまでも対照的でありながら重なり続ける情景を、
ただ、静かにアリオスはみていた。
そのすべてを、彼は視界に納めていた。
この、胸を貫く痛みは何だろうか。
そのようなことを、彼は思った。
天使という存在を思うたびに、胸が痛んだ。
彼らには心などなく、だからこそ獣と同じように狩ってもよいのだ。
そう信じていた青年にとって、天使の知性を宿した双眸は、
まるで強すぎる毒のように、彼という存在の根元をうち砕いた。
涙が流れることはなかった。
ただ、痛みだけが彼の内側にくすぶっていた。
その疑念。
誰に告げることもできないだろう、違和感。
彼はただ、その場にたたずんでいた。
何もまだ、変革の時を迎えていないのだと、思いながら。
天使という存在の異質さを思いながら、青年は剣を振るい続ける。
いつかすべてが終わる日が来るのではないかと、
そんな一縷の希望にすがりながら…………。
FIN………………?
フィアーラのお兄ちゃんの小話でした。
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