『彼の者の名は戦の天使・ゼフィエル』
幸いなるかな、遙かなる天よ。
幸いなるかな、遙かなる大地よ。
幸いなるかな、遙かなる大海よ。
幸いなるかな、遙かなる山々よ。
幸いなるかな、遙かなる大空よ。
…………幸いなるかな、我が愛すべき、遠き同族達よ。
狂い、惑い、そして堕ち逝く我が同胞達よ。
その白き翼に狂気を宿し、澄み切った双眸に闇を煌めかせ、
かつては高みより眺めた地上へと堕ち逝く者達よ。
その、あまりに嘆きを宿した死に様よ。
老いる事なき天使でありながら、自我を失ったが故に、
醜く年老い、そして狂ったまま人間達に狩られる者達よ。
その嘆きは、我等の遠き、親たる方には、届くまい。
我は欲す。
我は願う。
あまりに哀れなるその終焉を、我は望まぬ。
我等天使が何をした?
この天界にて生きる以外に術を持たぬ我等に、
何故このような運命を与えたもうか。
我等の大いなる方、我等の生みの親たる方、万物の始まりたる、
全ての者が畏怖と憧憬を持って見詰め続ける、我等の神よ。
我が名はゼフィエル。
戦の天使。
平穏に慣れた天界の中に置いて、唯一武具を纏う者。
神の護衛とし、天界の治安を護る者とし、
そしてまた、地上の戦を時に守護する者として、
我等戦の天使は生きている。
永き、あまりにも永き、永遠にも似た時間を。
「ゼフィエル、君は何を拒んでいるんだ?」
「…………ツァリエルか。神の御声は聞こえたか?」
「……いや。もう、何も仰ってはくださらない。
完全に眠りについて、
意識をカケラも残しておいてはくださらないようだ。」
「惨き事を。我等天使の終焉を望んでおられるのか。」
「違うよ、ゼフィエル。神はただ哀しんでおられるだけだ。
天使も人間も愛しておられるが故に、嘆いておられる。それだけだ。」
目前でそう呟く、年下の天使。
若輩でありながら神の信頼厚き、祈りの天使・ツァリエル。
愛すべき我が弟のような存在。
そして、只一人、神の願いを明確に知る者。
即ち、現状を打破する術を、唯一持つ存在。
天使らしい容貌をしたツァリエルと、何処か異色である我。
黄金の髪に青、もしくは緑の双眸を持つ者が、
殆どの天使と呼ばれる存在だ。
その中において、黄金の髪と真紅の双眸を持つ我が身が、
どれほど異端であるかは推して知るべし。
だが、戦の天使は皆、真紅の双眸を持っている。
それこそが、戦場を駆け抜け、血肉を浴びる我等の証。
かつては忌み嫌ったその瞳さえ、神の言葉故に受け入れた。
その瞳の色こそが、我等の存在価値。
我等という存在を証明するモノだと、神は仰った。
故に、我等はここにある。
ただ、それだけに。
「……神を目覚めさせる手段は?」
「この世界で一番綺麗なモノを探してこないといけない。」
「……もっとも綺麗なモノか……。」
「難しいよ。何が綺麗なのか、僕には解らない……。」
そういって俯いたツァリエルから、視線を逸らす。
神の眠りから、どれだけの時間が流れただろうか。
既に、数えるのも不可能な程の同胞達が、
自我を失い地上に堕ち、そして人間達の手にかかって狩られている。
けれど、それを咎める事は我等には出来ぬのだ。
人間達もまた、自らを護る為に必死であるからこそ。
翼を広げ、ツァリエルが飛び去っていく。
あの、純粋な天使は、また祈りを捧げに行くのだろう。
神はそんなモノを聞いてはいないと知っていながら、
狂い逝く同胞達の為に祈らざるを得ない。
そんな、幼すぎる精神があそこにある。
だが、それを、我は好む。
あまりにも純粋であるからこそ。
「…………幸いなるかな、我等が、ソラよ……。」
神の目覚めを、我は切望する。
護りきれぬ同胞達を、一人でも減らしたいが為に…………。
FIN…………?
本編終わってるのに、脇役作り出して何かやらかすのは昔から変わらない性質のようです←
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