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「ツァリエルは、何をしに地上にきているの?」

「地上がどうなっているのかを見に来ただけさ。」

「ねぇ、ツァリエル。どうして天使は落ちてくるの?」

「落ちたくて落ちてるわけじゃないのだけは、確かだけど?」

「…………。」

「怒らないで、フィアーラ。からかったわけじゃないんだよ。」


 困ったように笑う天使の青年は、美しかった。

 それこそ、偶像のように綺麗なのだ。

 けれどフィアーラの前で笑うその姿は、ごく普通の青年だ。

 その背中の翼さえなければ。


「天使、落ちてこなくならないの?」

「落ちるようにはなるだろうけど、逆は難しいな。」

「……どうして?」

「…………誰にも言わないって、約束できる?」

「うん。」


 フィアーラは、迷うことなく頷いた。

 ツァリエルは、真っ直ぐと彼女を見詰める。

 それが単なる好奇心ではない事を見抜いて、彼は小さく笑った。

 その微かな微笑みが、彼という存在を示しているようだ。


 そして、彼は口を開く。

 その事実は、誰にも言えないモノだった。

 第一、告げたところで信じて貰えない。

 そんな事を、フィアーラは思った。

 もっともそれは、衝撃が過ぎ去ってからの感想だったが。


「神様がね、眠ってしまっているんだ。」

「…………え、えぇ?!」

「はい、叫ばない。これは本当。僕達皆をつくった神様が眠ってる。

 起きてくださらない限り、天使達は力を失って狂っていくんだ。」

「……じゃあ、ツァリエルも?」

「そうだね、その時がきたら、狂うんだろうね。」

「嫌!そんなの、絶対嫌!!」

「嫌と言われても……。」


 無理なモノは仕方ないよ。

 そう言いかけたツァリエルの顔が、そうかと言いたげに変わる。

 どうしたのと問いかけるフィアーラを見て、彼は笑顔になった。

 少女の掌を握りしめて、驚く程真剣な顔をする。


「フィアーラ、君になら、神様を起こせるかも知れない。」

「な、何の事……?」

「神様は、仰っていた。

 『この世界で一番綺麗なモノを連れてきなさい』と。

 そういわれたから、僕はこの地上に、

 綺麗なモノを探しに来たんだ。」

「どうして天界じゃ駄目なの?」

「狂っていく天使しかいない天界には、綺麗なモノなど無いよ。」


 当たり前じゃないかと言いたげな口調だった。

 この目の前の天使は、時々ひどく残酷だ。

 優しい笑顔で、言う言葉が辛辣になる。

 それはフィアーラがまだ子供だから思う事なのかも知れない。

 20代の外見をしているツァリエルだが、天使に老化は無いのだ。

 唯一の例外として、狂い始めた天使だけが、老いていく。


「あ、あたし、綺麗じゃないモン……。」

「いいや、君だけが綺麗だ。

 只一人、僕達天使の為に泣いてくれた君なら。

 君のその、綺麗な心なら、

 神様を呼び戻す事が出来るかも知れない。」

「呼び、戻す……?」

「神様は、幻滅してしまったんだ。天界にも、地上にも。

 どっちも権力争いで醜く荒れ果てて、

 そんな世界にしたかったわけじゃないのに、

 いつの間にかそういう風になってしまって、戻せなくなって……。」

「……神様は、争っているのが、嫌いだったの?」

「神様にとっては、皆大切な子供だよ。だから、辛かったんだ。

 辛すぎて、見ていたくなくて、眠りについてしまう程に……。」


 その結果として、天使達が狂い、滅んでいく。

 神としてその結果を予測できなかったのかと問われても仕方ないが、

 神は、その結果を知らなかった。

 自らの力によって天使が生き長らえる事を理解していたが、

 自らが眠りにつく事でそれが途絶えるとは思えなかった。

 神は、死んではいないのだから。


 だからこそ、ツァリエルは探していた。

 神を呼び戻せる何か。

 彼は、神の言葉を聞いた。

 神を失った天界で、一人延々と祈りを捧げていた。

 一人、また一人と仲間が去っていく中で、只一人。

 けれど狂う天使は減らず、かつての同僚達でさえ、

 醜い争いに身を投じた。


 その全てが、神の眠りによるのならば。

 ならば、神を目覚めさせよう。

 その想いを胸に舞い降りた地上で、彼は見つけた。

 他の何よりも綺麗な心を持つ、優しい少女を。

 この少女の言葉ならば、その涙ならば、神は目覚める。

 そんな確信が、彼にはあった。


「天界に、来てくれるかい?勿論、後で戻してあげるから。」

「あたしが頑張れば、神様が目を覚ましてくれるかもしれないの?」

「そう。そして神様が目を覚ましてくだされば、天使は狂わない。

 もう、君が涙するように、天使が殺される事はなくなる。」

「本当に?」

「うん。」


 微笑んだツァリエルの笑顔。

 その笑顔だけを、フィアーラは信じた。

 まだ小さな掌を、天使の青年の掌に重ねる。

 そして彼女は、ただ一言だけ告げた。





「あたしを、神様の所に連れて行って。」



 

なんちゃってシリアス←

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