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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
最終決戦は避けられぬ
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決戦の場所へ

 空を飛ぶことは楽しかった。例えその空の果てに、同胞を殺す未来があったとしても、空を見ている間はすべてに無関心でいられた。

 指定された空域にいって、自分と同じく、敵の指導者に指定された空域で待っている、ただ一機の敵機。自分が勝つことは変わりなくて、仮に負けて死んだとしても自分は終わらない人生をいつまでもぐるぐると回っている気がして、いずれにしろ、大した感傷もなく同じ出自の者が操縦する戦闘機を撃墜した。そしてまた真っすぐ「戦闘空域」から本土へ帰る。寄り道をすることは、許されない。

 いつしか自分は戦いを待ち望むようになった。防音処理の施された、怖いほどに音が反響しない薄茶色の一人部屋に隔離され、攻撃命令が下らない限りそこから出られない。三度の飯は味のしない固形物と、身体を洗う石鹸の味に似た緑の液体だった。

 麻薬を愛する廃人のように、俺は死地に旅立つ空域を愛した。行って帰ってくるだけの往復の距離を飛んでいるときだけ、自分が生きている感じがした。戦いは俺くらいになると一瞬で片がつく。そうなると……いや戦いを早く終わらせようが終わらせまいが、行き返りの行程、戦闘機の出せる速度からかかる時間は決まっている。多くの機体が燃えて落ちていくのを見てきたが、その瞬間に俺はもう帰ることを考えていた。帰ればまた鳥籠のなかに閉じ込められる。そしてまた誰かを殺す旅を強く思い描くのだ。それこそ食べ物も喉を通らないほどに。

 そんな生活に、また戻ってしまったんだと思った。空を見て息を吸うあのわずかな時間に恋い焦がれるあまりに、同胞殺しにあまりにも慣れてしまった俺のあの日常が、また戻ってきたんだと。今までの色々なことは、全部夢だったんだと。


 そのつまらない物語のような妙なデジャヴは、すぐに消えた。あの日常にはないものが、目覚めた俺の前にそびえ立っている。

 神――ひどく世の中を悲観した、わがままで融通の利かない、世界を終らせるという破壊神。

 杖を天に掲げて、審判を下す者を気取って俺を見下している。眉間から神の考えが痛いほど伝わってきた。流石は身体をわけあった同志(・・)というべきか。

 ――なにが〝お前は禁じられた火器を使っただろう〟だ

「契約違反だ」

 俺は武器を使ってはいない。火力を行使せずなんとかあの気味悪い〝目〟から逃げようとするあまり、〝目〟に壊されたはずの自分の機体を再生してしまった。今ならわかる。それはこの神もどきが不完全だからだ。

 メゾンの手によって、俺はかつて機体と同一化し金属の身体を手に入れた。その俺に宿っていた破壊神が気まぐれに俺に肉体を返した。そのときの身体は人間の柔らかい身体だったが、その身体から「機械人間」の要素が完全には失われていなかったのだろう。俺と機体を分離させ、無力な人の子にしたつもりが、俺のなかに残っていた愛機(あいつ)が自己の機体を再生したのだ。

 それに、こやつが本当に世界を終らせることのできるほどの神なのなら、俺が無実なことくらいわかるはずだ。こやつごときの神通力など、恐るるに足らない。――いつものように(・・・・・・・)、落とすだけ。

「……メゾン?」

 巨大な神の肩の上を、小さいハエのように戦闘機が飛んでいた。あれは、確かにメゾンではないか。神殺しに協力でもしてくれるのだろうか?

「――ッ」

 右わき腹に被弾。なぜ、お前が俺を攻撃する

「――――」

 続け様に二発、三発。だが二度同じ攻撃を食らう俺ではない。それに、機体は自動的に修復される。

 世界が終わるか、俺がくたばるか。終わりなき戦いの始まりだ。

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