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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
最終決戦は避けられぬ
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誰がために剣をとる

 運命に導かれた、などという安っぽい口調では語りきれないことに、かつて自分が属していた特権階級を憎む者、神の依り代として神に逆らった者、自らのルーツを知りかつての仲間を憎む者が同じ土地に集まっていた。

 肉体改造のお陰で瘴気のただ中でも生きられる身体を得たレジスタンス、すなわち抵抗組織は特権階級者の生きられない土地に拠点を築き、長き時間を忍んだ。多くの黒肌の民の念願であっただろう、反撃の切っ先はメストス階級の喉元に届くことなく、神の介在する黙示録に変わった。

 人類への深い絶望にて活性化した破壊神は、彼ら三人の到着を待った。そして、支配層の出身でありながら一人の復古過激派によって得体の知れぬ生き物に呑まれたメゾン区長に、少しだけ意識を割く。

 メゾン区長は、絶滅を免れた人類が瘴気と戦い勝ったのではなく、瘴気を産み出し世界を人の住めない空気にした張本人であると知っていた。しかし、何らかの理由でその瘴気を産み出した“怪物”の存在を知らず、ファスト亜区に秘されていたアルファという生き物の侵攻に意識を奪われた。その対応に追われている間に、配下の科学者にかどかわされたのだ。ある種、哀れな子羊だった。

 破壊神は人類の愚かさを滅する神、だからこそ、世界の終わりを目前として、いずれ滅びる対象の一つでしかない、被差別階級を維持しいいように利用した愚かな特権階級の者に心を割く理由がなかった。

 神は自分の、説明のつかぬ意識の乱れに思い至った。ある意味ヴァンと同じ立ち位置であった科学者が、民族が至高の存在であったという嘘の歴史に陶酔するために産み出した生き物は、五百年前世界を瘴気で覆ったあの生き物と同系列のものだったのだ。

「性懲りもない……(われ)が世界を滅ぼす前に自滅するつもりか」

 案の定、自らを生き物に食わせ生き物の中枢系を支配したはずの科学者の魂が、生き物の反乱に遭い支配権を奪われつつある。暴走し毒を吐き始めるのも時間の問題だろう。

「道理で従来の化け物が動きを止めたわけだよ」

 アルファと呼ばれるそれは、破壊神を止めるために宛がわれたときに動きを止めている。まるで世代交代したかのように――新しく生まれた罪の化身に舞台を譲ったのだろう。

「忌々しい! 我は三人(あやつら)と戦って、世界に幕を下ろす。下賤なヒトどもに自分で終わらせてなるものか」

 神は静かに、荒ぶる醜い獣の命を終わらせた。欲深い科学者の夢は塵となったが、歴史の大きな渦のなかでは誰も気に止めなかったであろう。


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