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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
最終決戦は避けられぬ
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絶死か闘いか

 伸びてくる触手のような気味悪い何かを、タエは本能で避けた。目に射竦められているのには変わらないのだが、手が近くにきたときだけ呪縛が解けるようだった。タエを捕らえることに注力する瞬間だけ束縛の力が緩むのだろうか。ならば――その時が好機。タエは高度を維持したままに機体の窓を開け、その上に立ってみせた。足でレバーを操作し、触手の動きをあと一歩のところで(かわ)し続ける。そしてエンジンの出力を徐々にあげていく。バレていないといいのだが。

 溶けたはずの機体がいつの間にか復元されている不思議にタエは気づかない。

「こんなところで食われてたまるか――ッ」

 自分さえ取り入れてしまえば世界の破滅も乗り越えられる完全なる肉体を手に入れられる――目はそう訴えていた。〝目〟の一部になれば永遠の命を手に入れられると。しかし、それは得体のしれぬ〝それ〟の生であってタエの生ではない。

「てめえに食われるのは金輪際御免だよ!」

 捨て台詞としてその言葉を投げつけ、エンジンの出力を全開にする。蹴り飛ばすようにハンドルを押し、機体は鋭角で進路を曲げ、触手の守備範囲から一気に脱する――はずだった。

「クッ……――」

 腹に楔を穿たれたような痛みで動作が鈍る。〝目〟に射竦められているのとは違う感覚だった。せっかくここから、火力を行使せず逃げられるチャンスだったのに……。

 神の試練は戦わず混沌を収めること――しかし戦わなければ、死ぬ。タエはハンドルに掛けていた足を外し滑り込むように着座、照準を〝目〟に、合わせる――


 神は起こされた。いや、正確に言えば微睡みながら、肌の感覚で世界を見守っていたといっていい。その神が、肌に冷気を感じた。ああ、やはり人類は私の想いには反する存在なのだ。神はそう思ってしまった(・・・・・・・)

 神はタエの肉体に、五百年の時を経て宿った破壊の神だった。五百年前の心ある一部の民が、五百年後の人類が変わらず愚かならば世界を焼き払えと、自戒を込めて一人の少年を生贄にし作った神だった。神は眠りから覚めたとき、自身は世界に必要とされないことを望んでいた。天上に座し人の営みをただ眺める無為なる神でありたかった。

 神は最後のチャンスとして、自身が宿った肉体をタエに返上し、自身は自身の肉体を得て天上に座していた。そうして座しながら微睡んでいた神は、タエからの冷ややかな拒絶を感じ取る。

 タエは失った機体を無意識に再生させた。それは、神にとって〝交戦行為〟に該当するものだった。神は自らの望む世界が来ないと悟った。神は――

「世界が正しく在れないというのなら、私が星の矢を降らせよう。世界を始まりの混沌に戻し、熱きマグマにすべてを焼き払わせる。焦土こそ、この世界にはふさわしい」

 放たれた声はその言葉の予見させる未来に反してどこまでも冷たかった。


 神の目覚めこそを、かつてその神を身に宿していたタエの肉体が感じ取った。冷ややかな怒りが冷たさとなり楔となってタエの動きを鈍らせた。それがタエの決死の回避を鈍らせ、タエに止む無く火を使わせた。神が目覚めた時点では、タエは試練に反してはいなかったのである。

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