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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
乖離と受難
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制限時間

 機械の身体に食料は不要である。ただし、機械に整備が不要なわけはなかった。

 かつて産業革命と呼ばれた変革期に、労働者と呼ばれる貧しい人々は暴動を起こした。機械は自分たちの職を奪うのではなかろうかと危機感を抱いたからと言われている。

 〝思考型知能〟の出現によっても、人類は同じような拒絶反応をみせた。しかし、人類の仕事はなくならなかった。機械にしろ人口の知能にしろ、作り管理するのは人間にすぎなかったからだ。

 そしてその人類を失業から救ってきたはずの論理が、本当の人間である機械たちの行動を制限する。端的にいうと、メゾン、タタの両機は肉体である金属の可動域が狭くなってきていることを実感した。

「……おいメゾン、そろそろ時間切れじゃないのか」

 可動域が狭くなるのは、摩耗により関節の滑りをよくする機械油がきれていくから。油がまったくなくなってしまうと、彼らの金属の肉体は動かなくなってしまう。これも、レジスタンス組織が急襲でしか反旗を翻せなかった理由の一つだ。

 早くメゾン区の最高権力者の座所を見つけ叩かないと、十数年かけて練ってきたメストス階級打倒・黒肌の民解放の機会を、みすみす逃してしまう。そんな状況を正確に判断する余裕も、メゾンは忘れていた。

 目の前には人智を超えた化け物、背後には制御不能の仲間、その二体は何かに導かれるように同じ直線上を近づいている。二体はもうすぐ接触するだろう。

 ――接触して、どうなるのだろうか。

 化け物は開発された当初は敵国民を食らう生き物だった。今でもその習性は破られていないと見るのが王道だろう。ならば、機械の肉体を持つメシアは化け物の捕食対象ではないはずだ。

 なにか起きてはならないことが起きるのではないか。そんな悪い予感が、メゾンの危機予測を鈍らせる。ここまできて、こんなわけのわからない事象で、長年夢にまでみたメストス階級打倒の悲願を絶たれては、堪らないのだろう。

 しかし現実として、わけのわからないことは起こっている。そして、その対応に戸惑っているうちにタイムリミットは迫るのだ。

 レジスタンスの作戦本部から通信が来た。情報戦に長けた敵の懐のなかにいる友軍に通信をわざわざ送るのには理由がある。

『先ほどから隊長機メシアとの連絡がつかない。副隊長、現在の状況を知らせろ。必要に応じて指揮権を引き継ぎ、作戦続行可能か現場の判断を乞う』

 メゾンは力なくこう返した。

「作戦続行不能、隊長機〝不明〟。メゾンとタタの二機は只今より帰還する」

 本部の驚きと戸惑いを如実に表すざわめきが、通信に交じって聞こえる。メゾンの嘘になにも言わないタタも、言い知れぬ困惑をその機体の内に秘めているに違いなかった。

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