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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
それぞれの戦場
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前世(前編)

 五百年前、世界がまだ瘴気に侵される前の世界で、とある弱小国家が新型兵器を携えて様々な国に侵略戦争を仕掛け、そして勝っていった。

 その戦争の光景は不気味なものであった。銃にミサイルに戦車に戦闘機に、幾多の世界大戦を経て進化した武器が並ぶ、その対岸には、誰もいない。

 正確に言えば、一頭の大型動物がいた。咆哮するでもなく、火を吹くでもない“それ”は、かろうじて生き残った他国の戦士に悪魔と恐れられた。

 “それ”には兵士と市民の区別はつかないらしかった。男と婦女子の区別も、老人と若者の区別もつかない。敵将と二等兵の区別もつかない。ただ一つだけわかるらしかったのは、敵兵と飼い主の違いだけ。

 悪魔は身近にいる敵を食らう。咀嚼し、飲み込み、次の獲物を探す。悪魔は目を持たず、嗅覚かなにかで身辺を探っている。

 耳元まで裂ける口と異様に小さい頭頂部から、その生き物は、戦争で敵を食らうためだけに開発された、知能の低い生き物とされた。しかし、知能が低い割には、敵兵と飼い主の違いだけは決して違えることはなかった。

 膨大な土地を自国領と為し、巨大帝国を築きつつあった、怪物の飼い主とは何者であるのか。不思議なことに、赤い髪と赤い瞳を持つということ以外、今まさに侵略戦争をしている当事国にすら知られていない。

 怪物は敵国をまるごと飲み込んでしまう。捕虜などという概念は怪物にはなく、戦地はただ焦土に変わるのみ。農作物も育たぬようになってしまった土地には正体不明の靄がかかり、探りをいれようと分け入った者は帰らない。

 人々は口々にこう言った。あの靄の中には、赤い髪と赤い瞳の種族だけが繁栄の一途を辿っているのだと。人口は増え続け、いくら土地を支配下に置いても足りないくらいなのだと。――それは間違いだった。赤い髪と赤い瞳の一族は、当時絶滅の危機にあった。

 靄の中には、帝国などありはしなかった。その靄こそが、世界を汚染しつつあった瘴気そのものだったのである。


 赤い髪と赤い瞳の一族は、学問に秀でていることで有名な一族だった。

 彼らのもたらす科学技術は他の追従を許さず、度々その科学技術を目当てに戦争が起こるほどだった。

 幾多の世界大戦の末に結ばれたバークレー条約で、その一族は国連に保護され、不可侵の特別区を与えられた。

 その一族は、やがて増長した。彼らは神をも恐れぬようになった。彼らはついに、底無しの探究心を、禁忌の科学に向けてしまう。それは――遺伝子操作した生命の誕生。


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