覚醒
遠くに業火が見える。メゾンはすぐにそれがメシアだとわかったが、すぐに眉をひそめてしまった。
「おかしい……やつの出せる限界の火力を超えている」
轟音をたてて人々の住居を焼いていく様は、自分を鏡で見るように醜いものだった。そのことに我に返るわけでもなく、メゾンは目をこらす。
「あれは…………!」
かつてヴァンと名乗っていたメゾンが、父の遺言に従い、更地になったかつての実家の地下を掘り進めた。もちろん、憲兵に見つからぬよう、深夜の人気のない時間帯を見計らってのことである。
安いスコップがなにかにあたりブリキの玩具のような貧相な音をたてた。
「壊れたか――役立たずめ」
忌々しくスコップを持ち上げ、刃先を検分しようと思ったヴァンは、視線がスコップの先の地面に引き付けられるのを感じた。
スコップを持ち上げたときに、わずかにほぐされた土くれが、見逃すはずだった木の板の文様を夜闇の空気に露出させる。
「これは――!」
それは地下へと続く階段であり、地下室でヴァンは古代文明に関する重要な知見を得たのであった。
「君はツェーになれ。そしてこの世界を救ってみせろ」
被差別民である黒肌の民の戦闘員も、戦功を積めば壁のなかで政治参加が許される――何百もの戦闘員のなかでたった一人許される“ツェー”の称号。しかしそれは形だけのもので、ツェーに迫る戦功を積んだ戦闘員はシステムに消されるのが常だった。
誰にも到達できない空位の称号と、わかっていながら、いや、わかっていたからこそ、ヴァンはスラムのなかでついに見つけた「救世主の生まれ変わり」に告げたのだ。あるいはこの少年ならば、ツェーに辿り着けるかもしれない、と期待を込めて。
「――とうとう、“神の雷”が見れるのだな……――」
「メゾン? そりゃなんのことだ」
戦場にあるまじき恍惚とした表情で、メゾンはメシアの来る方角を見据えた。
「なんてことはない。我々のやるべきことはもうなくなったようだ」
第四形態、預言者型
メシアは飛竜型すら超越した形態へとトランスフォームする。布を体に纏い、杖を掲げた、古代の指導者の姿そのものが、五百年の年月を経て、空に具現した。