未知の文明
想定外な奇襲計画の中断で、どうも本部は暇をもて余しているようだ。というのも、先ほどからいらぬ雑談がだだ漏れて海の向こうから“通信”として聞こえてくる。ファスト亜区の面々を私が信用したとはいえ、こうも気を抜かれると、非常時に対応できないではないか。
区長の青年に先導されて歩む道すがら、メゾンはヤキモキしていた。結界とやらの外、彼らにとって未知の世界から来た三機の戦闘機を迎え入れ、今もこうして警戒心もなく背を向ける青年を本当に信用すべきか、メゾンは考えを巡らす。
ファスト亜区の住人たちは、奇怪な外見をしたメゾンとタエを友好的に受け入れた。青年も未知の生命体の二人を信用し、今もこうして背を預けて歩いている――だがこうともとれるのだ。ファスト亜区はずっと前からメゾンらのことを知っており、だから友好的に接しているのだと。
(万が一彼らが何かしらの目的をもって我々を誘導したのだとしたら――)
対空防衛システムがないと思われていたサターニャ区で受けた予想外の砲撃も、ファスト亜区の深慮遠謀によるものだとすれば、なかなかに恐ろしい。意図せぬ来訪者のはずの三人に敬語を使うのも、メゾンには胡散臭く感じられた。
「……どうかされましたか」
「いや、何も」
青年から見つめられていたことに気づき、青年らに不信が芽生えつつある思考を悟られたかと冷や汗をかくも、青年の次の言葉に脱力する。
「お見せしたい遺跡はこちらの階段から入ります。いかれますか」
「ああ、もう着いていたんですね」
砂を固めてできたような見た目の、地の底にも続きそうな階段が、闇に包まれた地下に延びる。恐れを感じないといえば嘘になった。
「さぁ、行きましょうか」
青年の号令に、メゾンとタエが足を踏み出したその時――
「わっ――」
「これは……地揺れ?!」
ごうごうと轟音をたてて地面が横にゆさゆさと揺れ、階段の形が変わっていく。
「おいお前――やはり我々を嵌めたのか?」
砂ぼこりが大量に舞い視界も遮られるなか、メゾンのその問いは、青年には聞こえなかったらしい。
「これは――……」
タエが息を飲む声が聞こえた。それは恐怖によるものというよりは、感嘆に近いもので……?
「…………」
視界の晴れたメゾンもその光景を目にする。先ほどまで階段しかなかった街の外れに、五層にはなるだろうか、四角錘型の巨大な建造物が地面から隆起していた。
「驚きましたか? さっきの階段は、この四角錘の塔を隠すための目眩ましであり、かつここに隠された財宝目当てにくる盗賊を捕らえるためのからくりでもあったのです」
二人はただ口をあんぐりと開けたまま尻もちからも立ち上がれなかった。