拒否
「それはできない」
メゾンは青年に助けられ馬を降り、その際にはっきりと協力を拒絶した。
「どうして? 味方は多い方がいいでしょう」
青年は首をかしげて純粋に疑問を示す。同意を求めるようにタエも見たが、味方は多い方がいいという点では同意見のはずのタエも目を伏せてしまった。
「あなたはあまりに世間知らずだ……いいですか、あなたは我々に強要されて我々を匿った。あなた方が招き入れたわけではない」
言い聞かせるように肩をつかむメゾンに、青年は反発する。
「だからどうして!」
「私たちはゲリラ活動でしかメストス階級には対抗できない。あなた方のような区に準ずるものが私たちに協力してしまっては、簡単に足がつくばかりか、人類が生きられる数少ない土地のなかで大きな混乱が起きてしまう」
「……わかりません。我々には古代の技術があります。これはメストス階級には読み解かれていません。あなた方の戦いを援護できるかもしれないのに」
メゾンは青年の肩においた手に力を強くいれる。
「それは本当ですか。断言できますか」
青年は押し黙る。断言できないというわけではなく、メゾンの迫力に押されたのだ。
「失礼を承知で言うならば、あなた方は区ではなく亜区だ。区長会議には参加できず、瘴気から人類の土地を守るための諸情報もすぐには手に入らない。非汚染区域を奪い合いながらも人類としては団結するという、ゆるい網から漏れているんですよ。そんな状況で、本当に技術が読み解かれていないって言い切れるんですか」
「……言い切れません…………それにしても、ファストが亜区に落とされていたなんて…………」
青年が疑問に感じたことは、ファストという地域が区から亜区に格下げされていた、という事実だった。
「まさかあなた、外で起こっていることをなにも知らないのか?!」
地の利と恵まれた科学によって鉄壁の防御を誇り、他区からの侵攻を妨げてきたファストは、その安全性にかまけて区の外で起こっていることに関心をなくしていった。
ファスト亜区が被差別民である黒肌の民を秘密裏に保護していたのは事実だった。そしてそれだけでなく、黒肌の民にも市民権を与え、平和で民主的な社会を築いていた。
青年は区で初めての黒肌出身の区長であったが、区長とは名ばかりで、他の区との外交などには一切関与していない。もっとも、外に出て顔をさらした時点で民主的なファスト亜区は驚異と見なされ消えていただろう。消えないまでも本気の攻撃を受けていたはずだ。
いつだって権力者は自らを否定しかねない潮流を嫌い、暴力で封じようとするものだ。それは世界が瘴気に侵される前の失われた歴史も証明しているのだが、彼らはそのことを知らない――知らないが感じとる。黒肌の民が区長なんて、ファスト亜区の周囲を囲む区の権力者たちがいい顔をするわけがない、と。
「……ともかく、そういうわけだから、あなたはこの一件に関しては無関係を貫いてください。例え計画が失敗し、我々が死のうとも」
メゾンの説得に、青年も折れる。しかし、ついでのように言葉を付け足した。
「わかりました、タタさんの治療が終わり次第あなた方三人にはただちに領土から出てもらいます。――でもまぁ、どうせ治療には時間がかかります。見ていきませんか、古代技術を」
「読み解かれるはずがないと見せつけるつもりか。見かけによらず強情だ」
「いいえ。しかし、我々が外のことを知らなかったように、あなた方も我々のことを知らない。知識として見ておくだけでも、あなた方の助けになると思いますよ」