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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
第三勢力
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国破れて山河在り

 ファスト亜区の三方を囲む山脈は雲の発生源にもなっているのだろう。視界が悪い空域が向こうから彼らに近づいてくる。

『おい、これを越えたらいきなり砲撃食らう、なんてオチじゃないだろうね……』

 メゾンはやや腰が引けていたが、タエの飛行に迷いはない。タエは一瞬で雲の壁のなかに溶け込んだ。

『まったく……私が見込んだだけはある男だ、決断にも迷いがない』

 愚痴のような褒め言葉を口から吐き出しメゾンもタエの後を追う。そして視界不良はすぐに解消した。

『…………これは』

 国破れても山河あり、という古い言葉を彼らは知る由もないが、それを体現するような、壮大な景観であった。

 世界の大半が毒を含んだ空気に汚染されてから五百年経っている。その“今”という時代に生まれた彼らには用途に見当がつかない、巨大な建造物が多く立ち並び、威容を保っていた。

 しかしそれら建造物は所々の塗装が剥げ、屋根は落ち、苔むしたり蔓に覆われもしている。ここにかつて存在していた文明が、亡んで久しいのだということは彼らにもうっすら察せられる。

「メゾン」

『ここが、お前のいう“心当たり”なんだな』

「……確証はないが、すぐに敵とみなされ攻撃されるメストス階級の所有地とは雰囲気が違うようだ」

 タエは第三形態の飛竜の姿のままゆっくりと建造物群に降下する。着陸可能地点を探すためだ。

「あれは……?!」

 はるか下方に、動くものを見つける。

『ありゃ人間(ヒト)だな。それも私たちと同じ黒肌の民だ』

 空中での対戦闘機の戦闘しか経験したことのないタエは、地上を注意深く見ることになれていない。前後左右上下、如何様にも動ける空中と違い、地上は可動方向が限られる。

 それに、地上にある対象の大きさを他のものから類推する技術を、タエは今まで持つ必要がなかった。戦闘員同士の結託と反乱を恐れ戦闘員同士を滅多に引き合わせない方針を採っていたメゾン区では、戦闘からの帰還時刻も被らないように調整していた。

 何百もの戦闘員に対し滑走路は一つしかなく、その周りに障害物はない。着陸で手間取った覚えがタエにはないのである。

 しかし、メゾンも建造物のあまりの大きさに動く点の大きさを見誤っていた。

 彼らが視認した地上で動くものは、メゾンの想定した人間の大きさを二回りは超える大きさで地上を闊歩している。彼らもすぐにそれに気づき、さすがのタエも顔を青くした。

「あれは……巨人じゃないか」

『言葉は通じるのか? 有無を言わさず殺されて食べられたりはしないだろうな?!』

 ……とはいえ、引き返すには体力が足りない。

「ええいままよ!」

 二機は大地に降り立った。


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