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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
瞬く間に、開戦
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命令無視ータエの本性ー

「――知ったことか」

 タエは忌々しげに呟いた。本部の命令を無視し、彼はタタを下に掴んだまま飛行を続けている。

『何度でもいう。そいつは見捨てろ。作戦の完遂の障害になる。総司令の命令だ』

「こっちこそ何度も言わせるんじゃねぇ。俺は好きにさせてもらうと言ったはずだ」

 単独行動を好む一匹狼の気質と思われたタエであったが、仲間を捨てるという判断を嫌う。これもメストス階級の策略で単独行動しか許されなかった彼の、秘められた本性かどうか。

 あるいは戦いに特化した思考ゆえに、部隊編成という経験したことがないはずの戦闘形式で、数が多いほど有利という戦争の第一前提を本能的に理解したのだろう。戦闘に長けた人間が群れて反抗しては困るという思惑で一騎打ちを強いられた彼らだったが、組織で戦わせていればたちまちメストス階級を攻め滅ぼしたかもしれない。

「黒肌の民の解放という大義名分のために、今倒れた同胞を捨てるというのは納得できない」

 一匹狼ならではの、目の前の敵と味方しか考えられない見通しの甘さであるかもしれない。しかし、味方を救護するというのは生きている者の数が大勢を決す戦争では正しすぎる判断であり、すべては特攻にも近い決死の攻撃を余儀なくされている黒肌の民の境遇が悪いのである。

『我々はたった三機で敵包囲網のなかを飛んでいるのだぞ? 手負いに割ける戦力はない』

 それをメゾンも分かった上で、それでも見捨てろというのは「肉を切らせて骨を断つ」が作戦の軸だからだ。軸を否定すれば乱戦にしかならず、乱戦になれば少数派は死に絶える。

「たった三機だからこそだろうが。敵にかかるには味方は多い方がいい、単独戦しかやったことのない俺でも解ることだ」

 タエの言葉は正論であり、しかしこの作戦行動では正解になりえない。

 言い合いをしながらも、二機は縦一文字の隊列は保ったまま、ほんの少しも乱れはしない。先ほどの銃弾が飛んできた方角へまっすぐ舵をとり、せめて敵の見る(まと)を狭くしようという、捨て鉢の飛行。飛べば飛ぶほど敵地に食い込み、横腹を敵に晒す苦肉の策。

「どこか敵の目の及ばぬ場所に降り、治療を行う」

『この期に及んでまだそんなことを。それにこんな場所に人目を忍べる場所があろうはずもない』

 タエは一呼吸置いた上て、メゾンにだけ聞こえるほどの小さな声で言った。

「心当たりがある――ついてこい」

『心当たり、だと……?!』

 タエの有無を言わせぬ声に、メゾンも腹をくくる。

『……わかった、お前を信じよう』

 二機はまっすぐに飛びながら、少しだけ機首を西に向けた。それはサターニャ区の東に位置するメゾン区とは逆の方角で、そこには弱小区のファスト亜区がこじんまりと領土を有している。

『ファスト……? あそこは謎の多い区だが……』

 他の区と比べ、あまりに情報が少ないのは、スパイが生きて帰れないとか、ハッキングに強く機密情報を見ることができないからと言われている。メゾンはタエの思惑を測れないままに、タエの後ろを追従し続けた。


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