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空域のかなた  作者: 春瀬由衣
瞬く間に、開戦
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計画破綻の危機

メゾン区第一空軍は五百人の兵士を抱えており、飛行機なら機首に、船なら煙突に、赤地の背景に三匹の鷹の区章を持つ。そのメゾン区に唯一対抗しうる区にサターニャ区があり、こちらの区章は青地の背景に一房の黒髪であった。

 その黒髪は死を覚悟して敵地に向かう特攻隊の象徴であり、メゾン区とは対照的な兵士育成体制がうかがえる。すなわち、強き独裁者のコントロール下に戦闘員を置くメゾン区とは違って、サターニャ区は市民の思想を支配下においた上で、戦闘員を“志願兵”として死地に送るのだ。

 スラムより拉致された黒肌の民の子どもは巧妙な洗脳を施す教育機関に送られ、メストス階級は神の庇護する選民であり、黒肌の民は神に逆らい地獄に落とされた種族であると教え込まれる。自らの不遇に意味を見いだしたい被差別民は、あろうことかすがるようにそのプロパガンダを信じ込む。――無論信じなかった者は知らぬ間に消えるだけのこと。

 進んで区のために戦うサターニャ区の兵士たちには、自らの境遇に対する不満も、反逆の意思もない。負けを悟れば自ら自爆するのだ。これが、メゾンの組織したレジスタンスにサターニャ区軍出身の者がいない所以である。

『……さて、サターニャが見えてきたな』

 見渡す限り海、という風景は終わり、遠くに陸地が見えてきた。

『ここは通過していいんだよな』

『ああ。サターニャ区は対空防衛が希薄であることが報告されている』

 メゾンとタタは、何の警戒もなく空域を通過しようとした。しかし二人は視界の後ろに流れていくタエを見る。彼の機体色は保護色の青に変わっており――

『――何ッ』

 機械の身体は損傷すれば痛みを感じる。痛覚がないと自らに迫る危機が認識出来ないからだ。

 メゾン、右尾翼損傷、タタ、胴体に着弾――

『うっ』

『グハァッ』

 一瞬遠のく意識、やや乱れる姿勢――

 メゾンは回復が早かった。なぜなら弾はかすっただけで損傷部を再生させれば済む話だったからだ。しかし、タタは姿勢をなかなか戻せない。右から衝撃を受け左に機体を傾けたまま、ゆっくりと旋回しつつ滑空していく。

『なぜこんなに対空に重設備が? まさか作戦がバレたとでも言うのか?』

 柄にもなく敗北を覚悟したメゾンと違い、タエの反応は早かった。保護色を維持したまま、弾丸が横腹に突き刺さったままのタタを追尾する。そのままピタリと上につき、形態を変えていく。

『――バカ、ここで恐竜型になっても一緒に落ちるだけだろうが!』

 メゾンが叫んだ。タエの第二形態である恐竜型は下に機体を掴むことができるが飛行はできない。しかし第一形態の戦闘機型では落ち行く機体を助けることができない。どうするというんだ!? メゾンが頭を抱えたその時――

「ウオオオオオ」

『あれは――!』

 タエの肉体は戦闘機型と恐竜型の折衷のような形に変わっていく。その姿はさながら飛竜――

『第三形態だというのか?!』

 下部にタタを保持し、再び上昇に転ずる! しかし短期間に負荷がかかりすぎたのか、空に混じる保護色がやや薄れ錆び付いた金属の色が所々から露出する。

『ダメだ、あれでは格好の射撃の(まと)だ。援護する!』

 メゾンはタエに向きかねない地上設備に爆撃の雨を降らせ、敵の意識を逸らす。

『なんとか持ってくれ!』

 メゾンは再び叫んだ。どこかに不時着できるだろうか。


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