友になれない戦争屋
「…………」
『………………』
『……』
誰も一言も話さないままに、三機の戦闘機は空を飛び続ける。これはあくまで作戦行動の一つであり、各隊の成功を祈り合って今も拠点のハッカー部隊などが行動をし続けている。しかしこれは抵抗運動でもあって、迂闊に敵に知られるわけにもいかない。飛び立ってしまった三機は、作戦終了までどことも連絡をとらない予定である。
静かである。成功すれば歴史を変えるに違いない奇襲の前日でありながら、雲一つない快晴、波は低く、敵もいない。三機分の飛行音だけが、空の果てまで進む。
『……しかしメゾンは天才だね』
『どうした、らしくないな』
『だって僕たちの肉体を“硬質化”させて発信機器を無効化するついでに、太陽光発電システムまで肉体に組み込んじゃうんだろう? これのお陰で燃料なく俺たちは飛び続けられる。メストス階級の豚どもが思いもしないほど遠い海の果てに拠点も築ける』
『……なんてことはない。植物の光合成の仕組みを真似ただけだ』
『ふーん、なんか知らないけどすごいや』
饒舌な性格でもないメゾンとタタの二人が話さないと間が持たなかったのに、一向にタエは沈黙している。そんなタエを、タタは茶化したくなった。
『やーい新人、長く飛びすぎてホームシックにでもなったか?』
「…………」
『おいなんとか言えよ』
タエはタタよりも無感情に、つれなく応答する。
「……それは戦いに必要な問いか」
『いや、違うね。しかしこういうジョークも嗜まないと空の男の名が廃るよ?』
「け、貴様の笑えんジョークより眼下の海に浮いた機械油の方がよほど役にたつ。用件はそれだけか無能」
『なっ……覚えておけよクソヤロウ』
タタは左隣のタエの機体の進行方向に回り込むように旋回し、機体に太陽光を反射させて目潰しを図った。もちろん、友軍にしていい行為ではない。タエとメゾンの初対面の飛行で、メゾンが発射させた散光弾はメゾンの“交戦意思”の象徴とされた。敵にしか普通やらない行為である。
『……効かないよ』
声を発したのは、タエと交戦経験のあるメゾンだった。
『タタ、奴に目潰しは効かない。タエの称号はやはり伊達ではないのだ、諦めろ』
その言葉と前後して、タタもタエがなんの不調もなく飛行する姿を見る。
『ふん……僕が本気でなくて命拾いしたな。友軍に目潰しなんて本気でするわけない』
こう言ってはいるが、やはり心中は穏やかではない。
『気持ちはわかるが、な……。ここではタエが一番の〝空の男〟だ。あいつはこれまで〝負けたことがない〟……。負けたら即座に死ぬ、捕虜の人権なんて議題にもあがらない戦場にいたからな』
タタは黙り込んだ。タエは確かに付き合いづらい人間であるが、それも黒肌の民として戦争の駒に使われ続けた弊害なのだろう。そう思うとやや怒りも収まってくる。敵は、あくまでメストス階級。世界に残された清浄な空気を独り占めし、被差別階級を壁の外に締め出す極悪な人種だ。
『許してやれ、な?』
『わかりましたよ、メゾンがそういうなら』
空は続く。三機はまた何も語らずに、海の上を滑っていった。