24.そ、そんなに適当なんですか……
動植物の中には、最初から毒を持って生まれたものがいる。蛙や紫陽花なんて、身近で分かりやすい例だと思う。
自然界だと、一酸化炭素とかが有毒ガスでは身近なのかな? ちなみに水辺だと……水中にいる生き物はもちろん、目に見えない微生物・菌等が毒になる。
何が言いたいかというと、「毒」と聞くと仰々しく聞こえるけれど、実は身近に存在するものだ。
私はカップから立ち上る湯気をぼんやり眺めた。
さっきも言ったように、自然界と毒は切っても切り離せない関係だ。ナールも『我のいた山にも毒に関する伝承があるのだ』と言っていたので、「水だから特別毒になる」わけじゃない。なんなら、植物の方が毒性のイメージが強い気がする。
とにかく、「毒」となった要因や他に起きていそうなトラブル、虹の入り江の再来がないかの情報を集めていこう。
カップのお茶を、思いきり飲み干した。
そうは言っても、泉に常に人がいるわけじゃないんだよね。私はどうせ泉の傍から離れられないので、窓から様子を伺うしかできない。窓をガン見しているのも疲れるから、何かをしつつ窓を意識して過ごすことにしよう……あれ、いつもとあまり変わらないな。
そんなわけで、今日は聖書を読みながら人々の噂に聞き耳を立てて過ごそうと思う。
聖書はまあまあ分厚いので、読むには時間がかかる。と言ってもこの聖書は、聖書と謳っているくせに、内容は神が起こしたトラブルばかり。何度でも言ってやる、聖書なんだから世界の成り立ちとかを書け。でも面白いから読んじゃう。
人の想像する神の世界は、神の中でも位があり、下級の神は上級の神に逆らえないらしい。実際私は他の神にはエザフォスに会ったくらいなので、階級社会を感じたことはない。王族や貴族は身分制度だから、神々も同じと考えたのかな……眷属って別に奴隷とかじゃないよね違うよね?
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聖書の中には、下級の神の話が割と多い。例えば、人魚と一緒にいるために人魚になりたい人間を人魚にしてあげたり、妖精同士の喧嘩を仲裁したら逆に自分が怪我をしてキレたり。神っぽいことをしている話もあれば、人間とほぼ一緒じゃんみたいな話もある。これは上級の神の物語にも言えることだけど、「人間の想像する神」は超常的な力を使うことが多いみたい。海や山を真っ二つにしたり、空をキャンパスにして雲で大きな絵にしたり、生き物を星にしたりと様々だ。私だって、こういう能力が使えるもんだと思ってたよ。
……というか、最初から持ってるクローゼットがいっちばんやばい能力なんだよね。クローゼットがあるおかげで、「貴方が落としたのは」っていうのができるわけだし。
そう考えると、レベルアップして貰った能力って、なんか「泉の女神」っぽさないよね?水の管理とかできないから物理的に掃除してるし、生き物の感知とかできないから、ずっと窓を監視してるんだけど……。今のところあのクローゼットが私の最大の武器だってことかな?
そういえば、最近は新しい能力や担当の場所も増えないなぁ。
あのアナログな紙で「女神力アップ」ってお知らせ、全然見てない。
最初は掃除とかで上がってたと思うんだけど……RPGだとレベルが高くなると上がりにくくなるし、そういうこと? それとも条件がわかんなくなっちゃっただけ? ……それとも、もう上がらないのかな。
窓の向こうはすっかり暗くなっている。私も本を閉じ、大きく伸びをした。ナールがまだ帰ってきていないけど、ナールは「眠る」という概念がないらしく、朝だろうが夜だろうが元気に外を飛び回っている。水辺で火の玉の目撃があったら、うちの眷属かもしれない。
多分私も眠る必要はないんだけど、なんかこう……気持ちの問題だよね。
***
私は男であり、女であり、大人であり、子どもであった。家族がいて、孤独で、幸せで、平凡で、悲しいヒトだ。
――。
騒がしく静かな部屋で指を滑らせ、夢へと沈んでいった。
私たちは夢が好きだ。
『……て……』
でも、なんだか辺りが暗くなってきた。
『フ……ォン……』
暗くなると夢が見られなくなっちゃう。
『フォンテ様』
「……?」
視界が炎で埋め尽くされている。
なんだ?
『フォンテ様、森の泉に人の子がいるのだ』
ああ……そうだった。
「……ありがとうございます、ナール」
ベッドから身を起こし、身なりを整える……こともなく、そのまま窓を確認する。
さて、仕事をしに行こうかな。
***
結局、森の泉に来た人からは特に情報は得られなかった。泉に休息を取りに来た村人のようで、座り込んで水面をぼんやり眺めるだけで、何もせずに去っていった。何しに来たんだろう。
それをナールと見守っている間、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「ねえナール。ヴァッサーが『精霊になってまだ間もない』って言っていましたが……精霊の世代交代ってどういうものなんですか?」
『世代交代とは、精霊がいなくなったら起こるものなのだ。力の溜まり場、もしくは妖精が精霊に転じて完了なのだ』
「なるほど? じゃあ、先代火の精霊はどんな精霊だったんですか?」
『知らぬのだ。精霊は消えたら終わり、次の精霊は別のどこかで生まれ変わるだけ。前の精霊との関わりなどない』
淡白。
「そ、そんなに適当なんですか……ということは、世代交代をした理由も分からないんですか?」
『うむ。精霊の器があれば、そこに力が溜まって精霊になる……とどこかで聞いたことがある。それだけなのだ』
「器……」
そっか。そもそも妖精や精霊って、人間には分からない範疇の出来事だから、記録には残っていないんだ。ということは、精霊の世代交代って、起こったかどうかも分からないものなんだろうな。
……ヴァッサーが精霊になって間もないということは、先代の水の精霊が何かの理由で消えたんだよね。なんだか、胸がざわつく。
世代交代に器、か……。私も、前任の女神が職務を放棄したから、泉の女神になったんだよね。
……なんか、似てるような気がする。




