22.……なった?
湯船に浸かってふと考える。
モーアの情報を集めてもらっているが、レイジたちに集められるのは言葉が通じる相手だけだ。だから、情報を集められる相手は、人間と意思疎通ができる生き物か、そもそも人間と話す気がある生き物に限られる。
つまり、人が好きではないユニコーンことイディナロークや、人間嫌いのドラゴンことアルトゥリアスたちとは、レイジたちでは情報を聞き出すことは難しい。そうなると、彼らには私から直接お願いしておいた方がいい。
うーん、イディナロークはともかく、アルトゥリアスは協力的ではないんだよね。「人間のことなぞ知ったことか」とか言いそう。シャナもアルトゥリアス以外はどうでも良さそうだし……でも言っておかないと、何かあった時に教えてくれそうにないし。
どうしたものか、と風呂あがりの牛乳を飲む。クローゼットから出したものなのに冷たいのってすごいよね、クローゼット最強!
リビングでは、ソファの上でナールが青い表紙の本を読んでいた。ナールに手はないのに、ページはぺらりと捲れていく。もし私がサイコキネシスを使えるようになったら、ソファやベッドから動かなくなるだろうな。
そうだ、ナールにさっきのことを相談してみよう。
『では、我がそのドラゴンと接触しようか?』
「そのドラゴンは私にも非協力的だと思うんですが、大丈夫ですか?」
『大丈夫なのだ。それにクエレブレの弱点は喉、容易いものなのだ』
やろうとするな。
***
暗い洞窟内を、輝く火の玉がふわふわと飛んでいく。洞窟内の生き物たちはナールに気付いているようで、水面から「なんだ?」と顔を出して見上げている。中には目のない生き物も顔を出していて、ナールのことは気配で感じ取っているようだった。
「えっ、精霊様?!」
水の音だけだった洞窟内に、声が響いた。
顔を出したのは水の妖精シャナだった。あれ? シャナって私のこと「あんた」とか「女神」って呼ぶんだけど? 様付けされたことないんだけど?
『ああ、水の妖精か。ヴァッサーは達者か?』
「は、はい! ヴァッサー様は最近よく温泉を楽しまれて……じゃなくて、火の精霊様がどうしてここに?」
ヴァッサー、ヴァッサー……水の精霊の名前、だった気がする。たしか、イエロの温泉で目撃した、人魚の形をした水の塊だ。
『うむ、最近水源が汚されることがあってな』
『なんだと?』
大きく水が盛り上がり、それを割ってこれまた大きなドラゴンが現れた。白い鱗に薄紫のヒレや翼が特徴のドラゴン、アルトゥリアスだ。
ナールが来ても無反応だったが、「水源が汚された」ことには動かずにはいられなかったようだ。上手だなぁナール……。
『そなたがフォンテ様の仰っていたドラゴンだな』
『……あの女神の手の者か』
『いかにも。我は女神・フォンテの眷属、ナールである』
シャナが「えっ精霊様じゃないの? あれ?」と混乱している。ナールってよく他の種族に精霊だと思われているけど、有名なの? それとも精霊の器みたいなものを持ってて、それを感じ取られてるみたいな感じなの?
私も普通に「女神」として認識されてるから、後者なのかな? でも、ナールは火の精霊から眷属になったわけだし、それなら神の方を感じ取ってくれそうなものだけど……まあいっか。
『それで、水源が汚されたとはどういうことだ?』
ナールはそこから、遺跡に隣接していたオアシスの話をした。先ほどは血の気が多いと思ったが、いい感じに話をしてくれている。すごい。
『穢れの気配を感じたのであれば、我を呼ぶのだ。我の炎で浄化しよう』で終わったナールの話に、アルトゥリアスは意外にも『覚えておこう』と言った。
おい! あいつら私には敬意のけの字もないくせに!! なんでナールには素直なん?!
『戻ったのだ~』
「……おかえりなさい」
全然納得いかない。たしかにナールは私より全然強いんだけどさぁ……あの二人、露骨すぎない?
私はこのモヤモヤが流れるように、勢いよくお茶を飲みほした。
そうだ、ナールに聞きたいことがあるんだった。
「先ほど炎で浄化すると言っていましたが、出来るのですか?」
『うむ、できるようになったのだ』
「……なった?」
ということは、元々はできなかった?
『遺跡でケルピーを倒した後くらいだったか、できるようになったなのだ』
え、眷属も能力増えるの? いや私と同じだと考えればそうか……でも私より神っぽい能力じゃない? 浄化。私は浄化使えないんだけど? ん?




