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20.この度はよくやってくれましたね

 翌日、私はレイジたちと再び顔を合わせた。

 昨日ようなやり取りもなく、すんなりと遺跡についての計画を話すことができた。それでも狩人の女性だけは、祈るように胸もとで手を組んでいる。信心深いのかもしれない。


 私が昨日ナールと話した対策も踏まえて、話を進めていった。

 最初に、体調不良や異臭の原因は「毒」であるという話をした。それには彼らも納得していた。毒を摂取すると――もちろん毒の種類にもよるが――吐き気や眩暈、呼吸困難による意識の低下といった症状が一般的らしい。なにそれしんどい。

 そして次に、魔物は「毒化したケルピー」という魔物で、それを倒さなければ、あのオアシスはいずれ「オアシスではなくなる」ことを話した。きっと遺跡内の毒が完全にオアシスの水と混ざり合い、生き物がいなくなる。原因は何であれ、それは避けなくてはならない。生き物がいなくなれば、その土地は一層荒れてしまう。動植物と自然は、お互いに支えあっていなければバランスが崩れてしまう。

 そのためにケルピーを倒す必要があると告げると、レイジたちは狼狽えた。


「お言葉ですが女神様……我々は、魔物にたどり着く前に体力を奪われてしまうのです」

「あの、アタシたちだけで、どうやって毒の魔物を倒すの? ですかぁ?」


 戦士と盗賊がそう言った。盗賊の全然敬語を使い慣れてない感じ、嫌いじゃない。

 けれど安心してほしい。


「レイジ、昨日の布袋を持っていますか?」


 突拍子もない振りだったからか、レイジは一瞬固まったが「はい」という返事と共に、3つの布袋を取り出した。普通の布袋の中にだけは、きちんと中身が入っているようだ。


「その銀の布袋には、銀糸が使われています」

「え……」

「えぇっ?! ま、ちょ、売ったらマジやばいじゃん!!」


 レイジが呆然とし、盗賊が飛び跳ねて興奮している。こんな水辺で飛び跳ねると、足を滑らせて落ちるよ。


「もしかして、これで毒を……」


 狩人が呟いた。

 その通り、銀の布袋を毒探知機として使おうという作戦だ。

 残念ながら私は遺跡についていくことは出来ない。それに誰も「毒」を感知することもできない。

 なので、毒が強いかどうかを判断するために、「銀」の出番だというわけだ。毒が近くなれば、銀は黒ずんでいく。つまり、毒の気配――ケルピーが近いか分かるというわけだ。

 え? あまりに鬼畜な探索方法だって? でも、毒の蓄積を防ぐ術がない以上、短期決戦の方がいいと思う。


「それから、ケルピーを倒すために、我が眷属であるナールを連れて行ってください――ナール」


 ナールが無言でレイジたちの前へと出現した。

 揺らめく炎に目を奪われているレイジは、口が開いたままだ。

 そんなわけで、ナールをケルピーのところまで連れていき、倒してもらうのが彼らの役目だ。ナールも毒の検知は出来ないし、「ケルピーなんて遺跡ごと焼き払えばいい」と、まあまあ野蛮な方法しか思いつかないらしい。うーん、さす精霊。さすがに遺跡丸ごと灰にするのは気が引けるので、こういう形にした。

 でも許してほしい。私はちゃんとした女神なので――。


「金の布袋は、金糸で作られた物。それで支度を十分整えてくださいね」


 資金は先に渡してるから、それで装備を整えてくれよな!






*****





 誠に遺憾なのですが、私は泉から離れることができません。

 つまり、ナールとレイジたちの大冒険を見ることが!

 できません!!

 なんで?! ナールは私の眷属なのに! 24時間365日観察させてくれよ!! GPSとカメラつけてよ!

 はぁ~~~~? くそでかため息しかでないんだが?

 私の愚痴は誰もいない部屋に散っていった。




『たっだいまなのだ!』

「おかえりなさい」


 ルンルンな眷属が帰ってきた。オアシスにレイジたちの姿はなく、どうしたのかと聞くと、「ケルピーは問題なく倒したので戻ってきた」とのこと。……そうか。ケルピーを倒すことがナールの仕事で、遺跡の調査はレイジたちの仕事か、まあそうか。

 ナールは遠出に満足したのか、もう温泉に行こうとしていた。ひっ捕まえて、詳細を聞いてみる。


『ほぼ予想通りであったのだ』


 ケルピーを倒したところ、やはり毒が遺跡内から消えることはなかったらしい。毒の気配は僅かに薄まる程度で、毒の原因はケルピーではなかったことが明らかになった。恐らくほとんどの魔物は毒に耐えられず、遺跡から逃げたが、それなりに強い力を持ったケルピーは、毒の混ざった水に住み続けることができて順応してしまったのだろう。結果、遺跡に住む毒化ケルピーが爆誕した。

 ナール曰く、レイジたちの会話から、きちんと彼らがエーデルシュタイン王国から解毒の薬をもらっていたようだ。ちゃんと雇用主に事前に報告していて偉いね。それにさすが王国、解毒薬を用意してくれるなんて。

 これでレイジたち、エーデルシュタイン王国、私たちの協力で、トラブルを解決できる。うん、いい結果なんじゃないだろうか。




 ナールが帰ってきてから少し経った後、オアシスに馴染みのある面々が並んでいた。

 あれ?


「フォンテ様!」


 膝を地面につき、水面に向かって叫んでいるのは、エレフセリアだった。最後に見た時はまだ「青年」という風貌だったと思ったが、いつの間にか「大人」になっている。ニコニコと細められる目元には、うっすらと皺が刻まれている。


「殿下!」


 四つん這いになるエレフの後ろで「おやめください」と泣いているのは、彼の付き人だろう。レイジたちはそんな二人に慣れているのか、気にする素振りは見せない。


「女神様出てこないねぇ」

「ホントね。どうしようかしら」

「いらっしゃるまで、待つしかなさそうですね」


 女性3人の会話を聞くまで、まだ報告を受けていないことに気が付けなかった。ナールからの話でほとんど分かっていたので、なんだかもう終わったつもりだった、ごめん。

 読んでいた聖書を慌ててソファに転がす。


「大丈夫」


 場を沈めたのはエレフ。膝についた砂を払いながらようやく立ち上がった彼は、レイジたち4人の顔を順番に眺めてこう続けた。


「ここで話そうともフォンテ様――女神様には伝わるよ」


 さっきまで付き人を泣かしていたとは思えないほど落ち着いた声色だ。そのまま彼らに報告を促す。


「ご報告申し上げます。まず、遺跡調査の件について、深く御礼を申し上げます」


 狩人の女性が、恐る恐るその場で報告を始めた。

 話の内容としては、ナールの意見と同じものだった。ケルピーが元凶だったのではなく、遺跡の奥にあった水源が毒を発生させるほど汚れが溜まっていたことが原因だった。ナールがケルピーを倒した後、熱を使って邪魔な沼を蒸発させ、その後彼らは解毒薬を使いながら遺跡の探索を進めたところ、それを発見したとのこと。

 ただ、いくら水源に解毒薬を使おうとも、人の手で掃除をしようとも、元の透き通った水には戻らなかったらしい。

 そのオアシスが私の管轄だったら、底の部屋を通じて水底を見に行けるんだけど、それは出来ない。

 あ、そうだ忘れてた!

 今日は聞くだけでいいか~と思っていたが、レイジに頼みたいことがあるんだった。

 滑るように可視化しながら玄関を出る。


「この度はよくやってくれましたね」


 話は聞かせてもらったという雰囲気で登場すると、エレフの付き人が腰を抜かした。そういう方向の反応、新鮮でとても良いです。

 今思ったけど、エレフとレイジたちが一緒にいるってことは、調査の依頼を出したのはエレフだったんだろうか。それともこのオアシスについてきただけ? 後者だったらさすがにびっくりだよ。


「レイジ、貴方は確かモーアという人物を探していましたね?」


 その名前を出すと、レイジの表情がグッと厳しいものになる。


「はい」

「以前、ディーンの村で、ある旅人の女性が不穏な噂を触れ回っているという話を聞きました」

「不穏、ですか」

「はい。その者の風貌までは分かりませんが、<ディーンの水も、いつか全て枯れる運命にある>と言っていたそうです」

「……」

「そして――その旅人の名前は、モアと言うそうです」

「モア!?」


 話を遮らないようにしていた戦士が、声をあげる。レイジも眉間に皺を寄せ、何か考え込むように口を閉じている。狩人と盗賊は戸惑ったようにアイコンタクトをとっていた。


「貴方たちにお願いがあります。そのモアという女性について、調査してほしいのです」


 レイジたちの視線が、一気にこちらを向く。

 モアという女性に、不穏な噂。今回のオアシスの水源が汚れで毒と化した事実。


 どうしても、これらに対する胸騒ぎが止まらなかった。

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