番外編.許可はとってあるから大丈夫
活動報告と同じ内容です。
超短編。エレフのお話です。死を連想させる内容なので、苦手な方はご注意ください。
とおいみらいのおはなし。
エーデルシュタイン王国には、変わった王子がいた。彼は城下町における貧富の差を少しでも埋めるため、長い間尽力したという。それは水から始まり、教養、衣類、食事にまで渡った。全てを彼が行ったわけではないが、その王子が言い始めたことをきっかけに皆で知恵を出し合ったという。
外見も整っており、剣の腕も立つ、民を守るため政にも関わる。そんな王子が注目を集めないわけもなく、民からの人気は高かった。彼の兄弟たちも極めて優秀だったが、国民に近い活動をしていたその王子の人気は一番だったと言える。国内の貴族令嬢たちは誰が彼の心を射止めるかと色めき立ち、国外からもそれを匂わせるような話が舞い込んだ。
けれど彼は、その誰も選ばなかった。不思議な事に父王や兄弟たちはそれを責めず、むしろ「そうであろうな」と頷いていた。王族内の仲は悪くなく、王位継承にも問題のなかった彼らだが、何故その王子に結婚をさせなかったのか。
勇気ある令嬢が尋ねたところ「この身を捧げる御方が既にいる」と答えたらしいが、婚約者もいなかった王子が一体誰に身を捧げるというのか。しかも彼は王族で、この国の頂点の一族だ。そんな彼が「身を捧げる」などおかしな話である。結局その答えは彼女を諦めさせるための発言だったとされた。
それに彼の胸元には、「水」を思わせる色の宝石が煌めく、シンプルなデザインの金のネックレスが常にさがっている。男性の着けるあのデザインの金のネックレスは、女性が着けるネックレスの対になっている物だ。夫婦や恋人、婚約者が揃いで着けるそれを着けているということは、対のネックレスを贈った女性がいるということだ。
現に王子は夜になると度々姿を消している。想いを寄せる女性の元へ隠れて通っているに違いないと睨んだ令嬢たちの父親は、王子がどこに行っているのかついに突き止めることに成功した。相棒のラクダに乗ってまでも王子が足繫く通っているのは、砂漠を移動する時に休憩場としてよく利用されるオアシスだった。こんな夜中に一体誰と会っているのか。王子はいつかこのまま駆け落ちするのではないか。そんな風に考えた彼らは、更に王子に密偵を向ける。だと言うにも関わらず、上がってくる報告はいつもオアシスでラクダと一緒に泉に向かって座っている様子だけだった。そこに誰かが来るわけでもなく、王子一人がラクダに話しかけている。そんな馬鹿な、と戦慄した頃、王子に気付かれた密偵は王子手ずから排除されていった。命は奪われなかったが、誰の手の物か吐かされた後解放された。王子はきっちりそこの貴族に「王族に密偵を向けるとは不敬」と脅し、それをネタに国内の慈善活動に参加させた。
――――という噂があったが、真偽は定かではない。
中には自分が王子の対であると思わせるようなデザインのネックレスを着ける猛者まで現れた。嘘だとバレた時の恥も外聞もかなぐり捨てた、捨て身の外堀埋めよう作戦だ。
令嬢たちの想いとは裏腹に、王子は終ぞ結婚することがなかった。適齢期を過ぎようとも「ただ自分らしく生きたい」と、時には国の為に心身を擦り減らし、時には数ヶ月旅に出て戻らなかった。
そうやって生きた彼が永い眠りに就こうとする時を、王族が顔を揃えて見守ることとなる。
「このネックレスとあの箱を、厳重にオアシスに沈めてほしい」
それが王子の最後の願いだった。彼の私室の収納には、大切に大切にしまい込まれた箱があった。箱の中には彼の運命を分けた、若かりしあの日にオアシスに着ていった衣類と、長きにわたり彼の相棒だったラクダの装飾具が丁寧に仕舞われていた。箱の中身は彼の家族しか知らない。
彼の弟が「そんなことをしても大丈夫なのか」と尋ねる。誰よりもオアシスを大事にしていた兄。もちろんその理由は知っているが、その泉の中に人の持ち物を入れてしまっても良いのだろうか。
「許可はとってあるから大丈夫」
穏やかに微笑むその表情に、どこにも未練はなかった。




