表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

11. ……づがれだ

 結論から言おう。イロエは雪山だった。


 エレフの一件からそこそこ時間を置いてから、ようやく次の泉開拓のため重たすぎる腰を上げた。だってまたあの穴掘り作業があるのかと思うと、全く気が進まなかったのだ。仕方ないと思う。それでも一応こうして開拓しようとしてるだけ偉いと思うんだよね。私すごい、責任感がある、素晴らしい。誰も褒めてくれる人いないから自分で褒めるよね。

 やれやれ見に行くか、とスコップを持って玄関を開けたそこは白銀の世界……などどいう生温いことはなく、猛吹雪でした。ビュウビュウどころが轟轟だ。雪と分厚い雲のせいで灰色世界なのだけれど、これも神の身だからなのか、地面や吹雪の向こうの様子が分かる。吹雪で視界を遮られることはないようだ。けれど、反射的に一度扉を閉めてしまった。やっぱり反射神経ってあるよね。だって私元々人よ。雪イコール寒いものという刷り込みがある。

 気を取り直してもう一度扉を開け、今度こそその大地に足を踏み入れる。私の足は雪に埋もれることなくその上に乗った。足跡もつかない。しゃがみこんで地面に積もった雪の状態を確認してみる。おそらく表面は柔らかいがだいぶ深く積もっていることだろう。普通の人だったらどれくらいまで埋まってしまうんだろう。スコップではとても穴が掘れそうにないが……一応持っていく。

 しばらく歩くと絶壁に辿り着いた。視界は黒い岩の壁。ゴツゴツとした黒い壁は今の私の場所からでは終わりが見えない。どこで終わっているのだろう、と壁沿いに歩いてみる。吹雪が少し和らいだ頃、絶壁の終わりまで来ることが出来た。絶壁の終わりは暗い海だった。どうやら大陸の端っこの山のようだ。荒れる海は、むき出しの岩に激しく波を叩きつけている。私は海に着く前に気になった絶壁の裂け目まで戻ることにした。この天気では中まで光は届かず、ただただ不気味な雰囲気を醸し出しているが、その暗さも雰囲気も、私には関係なかった。歩を進め、裂け目の中を探索する。中は一本道で、最奥も裂け目が途中で終わっただけ。なんの変哲もない。洞窟になっているのかと思ったが、期待外れだった。裂け目の横幅は5mもないくらいだが、遭難した人が吹雪をしのぐためには使えそうだ。

 そうだ! ここを使おう。ここならよっぽど人が来ることはないだろう。さっきの通り、遭難した人くらいだと思う。森の泉と湧水洞は元からあった泉で、オアシスは私が作った。オアシスはどちらかと言うと人が多く利用しているみたいだったので、今度は動物たちが自由に利用できる泉を作りたい。たまに人が来たら「あら奇遇」くらいの感覚でいい。

 ところで、と最奥に立って切れ目の終わりを見つめる。ここを切り拡げられたらいいんだけど、とスコップで叩いて硬さを確認する。すると。


「ぇえ……?」


 ガララ、とスコップの当たった場所が崩れ落ちた。そんなに脆い岩だったのか、ビビッて手で触って確認してみるとそんなことはない、しっかり硬い。手で押しても叩いてもピクリともしない。けれどもう一度スコップで叩くと、やはり簡単に崩れる。もしかして、もしかするんだろうか。






「……づがれだ」


 いや実際に疲労状態というわけではない。ただ何となく、気持ちの問題と言うか。一人で黙々と岩を切り崩す作業は辛かった。無音だし。やっぱり話し相手欲しいかもしれない。

 まず開けた空間を作り、その後そこに穴を掘る。これで完成。サイズで言ったら……ううん、10~15mくらいのスペースに、その半分が穴って感じだろうか。よく分かりません。とにかく、これで後は待っていれば水は溜まる。しかし、今回の泉は今までと違う感じにしたい。何せここは雪山、雪山の泉と言えば、そう! 温泉!! ファンタジーゲームでは大体雪山とかに温泉あるから……え、偏見? 私のイメージの話です。

 オアシスは勝手に水が溜まったけど、私が「温泉になれ」って思ったら温泉になることを信じて、「温泉になりますように」と穴にむかって言ってみる。特に何の反応もない。そりゃそうだ。

 部屋に戻ってまずはお風呂、その後睡眠……と言いたいところだが、一度クローゼットの前の立ち「怪我と疲労に効く薬草ください」と懇願。それから開けてみると当然だが、わさわさと薄茶色の葉が詰まった籠があった。これがその薬草らしい。ついでに植物図鑑を出して調べてみる。形はシソに似ているので、シソと同じ形をした植物がないか描かれた絵だけで判断する。すると「ジリャオ」というシソに似た植物が載っていた。色も茶色と書かれている。内容的には、お茶にして飲むと免疫力の向上、潰して患部に塗ると火傷やけがの治癒を助ける、美白効果がある、とアロエのような感じだ。なかなかいいんじゃないだろうか。

 それを持って再度掘った穴へ。そのまま籠をひっくり返し、全てのジリャオを穴の中へ放り込む。そして仕上げに「祝福」をかける。これでいい、気がする。さあ、早く戻ってお風呂に入ろう。






 モチベーションを上げるために、褒めたりご褒美があったりするといい。なので、最近は片付いた状態を保っているカルム湧水洞の住人たちになにかあげたいと思う。けれどあのドラゴンや妖精の欲しいものなんて知らないし、私が上げられるものかすら分からない。大量の人間とか言われたら無理だ。私が頼んだのはシャナの方だし、アルトゥリアスの方はなくてもいいだろうか。


『シャナ』

「女神?」


 念話で話しかけると、すぐに反応があった。これで反応が無かったら、リビングのソファからカルム湧水洞に乗り込むところだった、スコップ片手に。


『はい。最近、洞窟内をきれいに保ってくれていますね』

「あんたが命じたんでしょ」


 このドラゴンと水の妖精、この洞窟の、正確には源泉の女神にむかって不敬が過ぎやしないだろうか。私の事を「女神」って呼ぶなんて……あれ、名乗ったっけ? 記憶にないので名乗ってない恐れがある。そうならすみません。いやいや、名称以外に言葉遣いも不敬だから不敬です。


『私にできる範囲でですが、これまでの報酬を渡そうと思います。何か希望はありますか?』


 なかったら「妖精の恵み」を1つ渡すつもりでいる。念のためにそう伝えると、シャナは考え始めた。

 多分「妖精の恵み」の治癒力は高い方なんだと思う。瀕死のドラゴンの怪我が治ったくらいだし。結構いい報酬のはず。アルトゥリアスたちはこの洞窟から離れないだろうから、直接森の泉に行って水を飲むこともしないだろう。元々それは妖精たちが残したフェアリーサークルのおかげで出来た副産物のようなもの。特殊な瓶がないと持ち運べないため、なかなかそれを瓶ごと貰える機会はそうそうないはず。それに、同じく妖精であるシャナが洞窟内にフェアリーサークルを作っていないということは、シャナ1人では作れないか、水の妖精には作れないか。要するに、「妖精の恵み」は入れ物含めて希少価値があるという事だ。そう考えると、「妖精の恵み」の使い道は他にもありそうだ。今度何か使える事がないか考えておこう。


「分かったわ、それでいい」


 これが1つあれば、万が一またアルトゥリアスが酷い怪我を負っても治せる。シャナならアルトゥリアスの事を思ってそう言うと、半分くらいは思っていた。もう半分は「女神関わってこないで」とかそんなんかと。

 私は思わず笑ってしまう。それを悟られない様「妖精の恵み」を手に、玄関に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ