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「もう、本当に信じられない! パパったら、一体どういう基準で探偵を採用したの」

ぷりぷりと怒りながら、麗奈が食ってかかると雄三は

「ははは、飯島もさぞかし驚いたろうな。まあ、あいつにはいい薬だ」

と笑ってみせた。

その雄三の態度がまた気に喰わないといった風に

「大体パパが早く事務所に慣れろっていうから行ったのに、肝心のパパは来ないし」

ふくれっ面の麗奈に申し訳なさそうに

「パパだって一緒に行きたかったさ。だけど、エドワードがね……」

そう言いながらエドワードに恨めしそうに視線を送った。

当のエドワードはと言うと、毛むくじゃらの獣に襲われている真っ最中だった。

「あ、あの。お嬢さん、こ、この獣を何とかしてください……」

息も絶え絶えに懇願するエドワードの姿を見るなり、麗奈は吹き出した。

「やだ、うそ。どうして天使が猫に襲われてるの」

麗奈の愛猫ミーシャは、小さな白い燕尾服の天使がいたく気に入ったらしい。

両前足でしっかりとエドワードを押さえ込み、体中を舐めまわしているところだった。

「ひょっとして天使って、またたびの香りがするのかしら」

「じょ、冗談はやめてくださいよぅ。私、本当にそのうち食われてしまいそうです」

天使らしからぬ弱音を吐くエドワードに、クスクス笑いながら見入る麗奈に

「やれやれ、麗奈のご機嫌は直ったかな」

雄三が胸を撫で下ろすと、

「それとこれとは話が違います!」

麗奈がまた睨んだ。

雄三が縮み上がり肩をすくめると、丁度いいタイミングでドアの向こう側から

「お嬢様、お目覚めですか」

と絹の声がした。


「ええ、ばあや。そろそろ出掛ける仕度をするわ」

返事を返し振り向くと、もう雄三の姿もミーシャに捕まっていたエドワードの姿も消えていた。

一日に逢える時間がたった5分間だけなんて、短すぎると麗奈は底知れない寂しさを感じた。

雄三が生きていた頃は、ほとんど毎日雄三にべったりしていた麗奈だったのだ。

よく友人達はファザコンとからかったが、麗奈にはそれのどこが悪いのか理解出来なかった。

母親を早くに亡くした麗奈を雄三は出来る限りの愛情を注ぎ、守ってきた。

強いだけではなく頭も切れ、ジョークも好きだった雄三は

娘の前でも気の抜いた格好は見せなかった。

物腰も洗練されていた雄三は麗奈の理想の男性像でもあったのだ。

最初は幽霊になってしまった雄三に戸惑いもあったが、大好きだった父親には変わりない。

つい数分前の出来事がまるで夢であったかのように

余韻すら残らずきれいさっぱりと跡形もなく消えているのは、やはり寂しい。

絹には明るく返事を返したものの、麗奈の気持ちは少しずつ暗くなり

仕度をする手も思うように進まない。

今日は事故に遭って以来、初めて大学に行くと絹には告げてあった。

「それはようございました」

絹はことのほか喜んで、他の使用人たちにも事細かに指示を出していた。

麗奈が気持ちよく目覚め塵一つない磨き上げられたダイニングで

吟味された食材で優雅に朝食を摂り

安全で快適な運転で大学に着くまで決して気を抜かないようにと

すべての使用人たちに厳しく伝えているのだ。

それは今に始まったことではなく、麗奈が幼い頃からのことだったのだが

今日の麗奈にはいつものことが気詰まりに思えてきた。

しかし今さらやめるというわけにもいかない。

絹や他の使用人たちの心尽くしを考えると、自分の我がままを押し通すのは申し訳なく感じる。


ノロノロと仕度を済ませ寝室のドアを開けると絹が

「お嬢様、本当に大丈夫でございますか?」

と声を掛けた。

にこりと笑って

「もう、ばあやったら心配性なんだから」

さっさと朝食を済ませて大学へ行こう。

麗奈は足早にダイニングへ向った。








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