表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

眉間に皺を寄せたまま、険しい顔つきで麗奈が荒くため息をつくと

乳母の絹が

「お嬢様、お疲れですか? そろそろお帰りになられた方が」

と進言した。

「いいえ! この問題は今、解決の糸口を見つけておかないと。

そうでしょう? 局長の衣笠さん」

話を振られた衣笠はしどろもどろになりながら目を泳がせている。

丸顔で人の良さそうな男だが、どうも局長というには頼りない雰囲気だ。

殺風景ともいえるほど簡素な室内には、応接用のテーブルセットと

事務机がふたつあるだけで寒々しい雰囲気すら漂っていた。


突然、幽霊となった雄三が現れたものの、

あとは何事もなく無事に社葬が終わった三日後。

雄三に促されて『白鳳探偵事務所』に初めてやって来た麗奈だが、

父、雄三から受け継いだ探偵事務所がまさかこれほど慎ましいものだとは

夢にも思わなかった麗奈は何度も首を振りながら

「一体、どうしてこのような事になっているのか。説明してもらいたいものだわ」

あまりにも麗奈の態度がピリピリしているので絹は、はたと思い付く。

「お嬢様、また頭が痛むのですか?」

あの事故以来、麗奈は時折襲ってくる激しい頭痛に悩まされていた。

事故による後遺症だと医者は言ったが、普段おっとりとしている麗奈が

ひとたび頭痛に見舞われるとまるで違った人格のように

激しい気性になってしまうのが乳母の絹は心配なのだ。

「大丈夫よ、ばあや。これは頭痛なんかじゃないから」

くるりと衣笠に顔を向けると再び厳しい口調で

「さあ。説明してちょうだい。何故、一人も探偵がいないのか」

と麗奈は問いただした。

もごもごと口ごもりながら衣笠は

「いえ、一人もいないという訳では」と答えるのが精一杯のようだ。

「目ぼしい探偵も居ない。腕利きと聞いていた探偵もパパが死んでから休んでいる。

あとは誰がいるって言うの?」


「そいつは俺だ」

勢い良くドアを開けて、革ジャンを羽織った若い男が事務所に入って来た。

「まったく、深窓の令嬢ってどんなイイ女かと思えば

キンキンキャンキャンとよく吼える女だぜ」

乱暴な口ぶりの男に怪訝な視線を送ると

「衣笠さん、この方は?」

尋ねる麗奈にぺこぺこと頭を下げ

「あ、あの彼は飯島譲くんと言いまして……」

紹介する衣笠を遮って

「俺もここの探偵なのさ」

と飯島は煙草をくわえながら言った。

「そう、飯島さんとおっしゃるのね。あなたは今までどれくらいの実績がおありなのかしら」

「ふぅん。俺の実績を知ったところでどうするつもりだい」

「父から聞いていた腕利きの探偵さんは今居ないようだし、

見たところあなたはそれほど有能とも言えないみたいだから、

これから先のことを考える参考までにお聞きしたいわ」

普段の麗奈では口にしないようなきつい言葉に、絹は心配顔のまま

麗奈のそばに立ちすくんでいた。

「まったく、口の減らない女だな」

そう言いかけて、飯島が麗奈に詰め寄った瞬間の出来事だった。


どすんと派手な音を立てて、飯島がひっくり返った。

正確には、麗奈が投げ飛ばしたのだった。

「無礼な男ね。立場を弁えなさい!」

腕組みしながら、飯島を見下ろす麗奈を

あっけに取られて見ていた衣笠に、

「お嬢様は合気道の有段者でございますから」

澄ました声で絹が囁いていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ