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狭い部屋の中を頼りなくふわふわと漂いながら困惑した顔で、

ようやく雄三が口を開く。

「驚かして悪かったね。麗奈。その……、怒っているかい?」

目が覚めても目の前をふわふわと漂っている雄三に

悪い夢ではなかったのだと、麗奈はぼんやりとした虚ろな目で

ただ雄三の姿を眺めていた。

「あの、麗奈……」と雄三が呼びかけると、唐突に

「かなり娘さんは混乱していますね。だから言わんこっちゃない」

肩をすくめて首を振ったのは、体長5cmくらいの白い燕尾服を着た小さな男だった。

突然、降って湧いたような男の出現に目を丸くして

「やだ、うそ。何これ?」

麗奈が声を裏返して雄三に聞く。

「こ、これとは何ですか! コレとは!」

顔を真っ赤にして男が声をあげると、狭い部屋の壁が共鳴してビリビリと鳴った。

体長5cmの体の一体どこからこれほどの大声が出るのだろうと

目をパチクリさせながら

「ご、ごめんなさい。それで、あなたはどちら様?」


コホンとひとつ咳払いをし、気を取り直して今度は落ち着いた声で

「わたしは魂の連行係です」

と男が答えた。

「魂の連行係?」

「まあ、人によっては天使と呼ぶ人もいますがね」

麗奈の顔色を窺いながら

「彼の名は、エドワードと言ってね。パパのお目付け役なんだ」

と雄三が言った。

さっぱりと訳がわからないと言った顔で、麗奈が首を傾げると

エドワードが

「あなたのお父上は、本来ならとっくに天界に行く魂なんですがね。

どうしてもしばらく地上に残りたいと言い張られまして。

わたしの役目上、本当は無理やりにでも天界に送りたいところなんですが」

と、言いかけてチラリと雄三を見た。

その目つきは『天使』とは言いがたいほど、忌々しげである。

どうやら雄三とエドワードの間には何かしらのひと悶着があったらしいが

今の麗奈にはそこまで問いただす気力はなかった。

大好きな父が目の前にいるのは嬉しいが、幽霊となってしまった雄三に戸惑いがあった。

それでつい、

「パパはいつまで居るつもりなの?」

と聞いてしまった。

「なっ! 麗奈はパパが幽霊になって戻ってきたのは迷惑なのかい?」

思い切り傷ついた顔をした雄三に

「あ、ち、違うの! そんな意味じゃなくて……」

慌てて麗奈は取り繕うとしたが遅かった。

みるみるうちに雄三の両目に涙が溢れ

「なんてひどい話なんだ。愛する娘のために、この世に戻ってみれば

その娘に疎まれるとは」

おいおいと声をあげて泣き出した。

「ごめんなさい。パパ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」

「本当かい?」

強く何度もこくこくと麗奈が頷くと、満足した様子で

「じゃあ、パパがずっと居ても構わないかい?」

猫なで声で雄三が聞くと

「それはダメです!」

エドワードがまた声を張り上げた。


しかめっ面で耳を塞ぎながら、

「どうしてダメなんですか」

恐る恐る麗奈が尋ねた。

「一応ね、お父上の魂がしばらくの間地上に留まることは許可されました。

ですが、ずっとと言うわけではないのですよ」

苦々しく答えるエドワード。

またさっぱりと分からないという風に麗奈が首を傾げると

「本来天界に行くはずの魂が地上に留まるということは、

その分、魂が削られるということになるのです。

長く居れば居るほど、削られる部分が増えてしまう。

最後には魂、そのものが消滅してしまうことになるのです」

「ええ! パパが消えてなくなるの」

「ですから、消滅を防ぐためにも地上にいられる時間制限をしております」

エドワードの事務的な説明に、うんざりした顔で

「一日に麗奈のそばに居られる時間は5分間だけ、なんだってさ」

肩をすくめため息を吐きながら雄三が言う。

「あなたの魂を無事に天界に送るための措置です!

そのための連行係、あなたが無茶をしないためのお目付け役なのですから!」

また忌々しげな表情で真っ赤になって語尾を強めるエドワードに

「あの、それでエドワードさん? パパが現れる時は、もしかしてあなたもご一緒に?」

「はい。それが何か?」

麗奈は再び困惑した顔で深いため息をついた。










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