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プロローグ

無機質な白い部屋に横たわる若い女性の姿を見下ろしながら、白鳳麗奈は奇妙な感覚を覚えていた。

見覚えのある顔なのだが、はっきりとは思い出せない。

医者と看護師が入れ替わり立ち代わり忙しなく部屋を出入りしている様を眺めながら

傍らでぼんやりと同じ様に若い女性を見下ろしている父親の雄三に

「ねえパパ、この人誰だっけ」

そう聞いた麗奈に雄三は目をむいた。

「誰って……。麗奈、私は常々お前は少しボケたところがあるとは思っていたが

自分の顔も思い出せないのかい?」

ため息混じりに答えた父に、今度は麗奈が目をむいた。

「やだ、うそ。もしかしてアレって私なの。じゃあ、ここにいる私は何?」

今度は何も答えない雄三に、不安げに麗奈は聞く。

「パパ、私死んじゃったの」

泣き出しそうな声で尋ねる麗奈に雄三は横に首を振った。

そして麗奈に向き合うと

「お前は死んではいないんだよ、麗奈」

そう言ってから

「これからパパの言うことをよく聞きなさい」

と麗奈の目を見つめた。

今まで見たこともないような険しい表情の雄三に、麗奈は怯えた。

麗奈にとって父はいつも陽気で、やさしい表情しか見せたことはなかった。

一人娘の麗奈を溺愛し甘えたい放題を許してきた父の姿は今はない。

目の前の厳しい表情の雄三は見知らぬ男に見えた。

麗奈の怯えを察知したのか、雄三の顔が少し緩んだ。

「ああ、ごめんよ麗奈。怖がらせてしまってパパが悪かった」

「ううん、大丈夫」

ようやく答える麗奈に雄三は安心した顔を見せた。

「麗奈、よく聞きなさい。お前はまだ生きているが、私はもう死んでいるんだ」

「えっ」

悲鳴に近い声を出す麗奈に、雄三は静かに続けた。

「私達はドライブの途中で事故に遭ったんだ。覚えているかい」

「そう言われれば、何となく思い出してきたわ」

「だが、この事故は普通の事故とは違う」

「どういうこと?」

「これは私達を殺そうと仕組まれた事故だ」

「やだ、うそ。だって、どうして……」

麗奈の言葉を遮って

「パパにもどうしてかは、今はわからない。しかし車に細工がされてあったのはたしかだ」

父の言葉に顔を歪めながら麗奈は首を振り

「そんな……。これから私達はどうなるの」

と呟いた。

分家とは言え、代々続いた名家の一人娘として何の苦労も知らずに育った麗奈の行く末だけが

雄三には気がかりだった。

しかし自分が死んでしまった今となっては、もうどうすることも出来ない歯がゆさに

雄三はたまらない焦燥を感じていた。

「麗奈、お前のことがパパは心配だ。もしかするとまたお前の命を狙う者が現れるかもしれん。

その前にこの事故を仕組んだ犯人を見つけるしかない」

「でもどうすれば……」

「お前はまだ大学生だが、パパの探偵事務所を受け継ぎなさい。そして仕事の側ら、犯人を捜すんだ。お前のことは事務所の探偵たちがきっと守ってくれるから」

「やだ。パパが居なくて私一人でなんて」

半泣きになる麗奈を雄三は強く抱き締めた。

だが、幽体となっている二人の体は虚しくも素通りしてしまう。

「やだ、やだ。本当にもうやだあ……」

子供のように泣きじゃくる麗奈をたしなめるように

「お願いだ麗奈。パパだってお前を残して逝きたくない。でもどうしようもないんだ」

雄三が声を振り絞った。

しゃくりあげ溢れ出す涙を拭い、麗奈は雄三を見つめる。

「パパはもうそろそろ逝かなければならない。麗奈、いつもお前を見守っているから」

どこからともなく現れた柔らかな光の輪が雄三を包む。

光の輪に抱かれて、ゆっくりと姿を消す雄三に麗奈が叫ぶ。

「やだ、パパ! 行かないで!」


目を開いた麗奈に、60代半ばくらいの女性が涙を溜めて声をかけた。

「麗奈お嬢様! 助かったのですね!よかった」






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