第四章 昼食3-1
「……先輩…」
「ん?どうしたんだ大輝?」
「………なぜ俺は、先輩に猫のように襟をつかまれてズルズルと連行されているのでしょうか?」
そう、本当にいきなりだった。
昼休み。あぁまたA君たちと死闘を繰り広げなくちゃならねぇのかなぁ…と、憂鬱気分でスパイクに履き替えようとした直後。
「だあああああああああいいいいいきいいいいいいいいいいいいいいいい‼」
授業終了チャイムをかき消すかのごとく先輩の奇声。同時に蹴破られる扉。スライドしか対応していない(先輩にとっては)不親切設計の扉は、哀れ衝撃により吹っ飛び、俺の顔面に直撃した。
「なっぶわ⁉」
「四時間目が終わったな!昼休みだな!つまりは昼食だな!よし、一緒に食べよう!」
「は…はにゃが…」
「無回答は肯定と判断する。ということで、行くぞ!」
「ぐぇっ⁉」
…こんな電光石火のごとく展開により、今に至る。
俺の切実な質問には笑顔でスルーし、襟を引っ張り続ける先輩であった。
「…先輩、せめてティッシュを恵んでください…俺の血痕が点々と廊下についています…」
「なんだ大輝、ティッシュも持ってないのか?駄目だぞ、ちゃんと衛生面を考えて」
「なに一般常識持ち出してんだテメェ。そもそもの原因があんたの奇行だろォが」
「………」
「…いや、あの、すみません…さすがに口が悪すぎましたk」
「…まさか貴様…私のポケットに入れている生暖かい匂い付きティッシュだからこそ欲しいとな…?はい」
「予想斜め上からの突き抜けマッハで、俺の思考は停止しました。あと嬉しそうにティッシュ渡してんじゃねぇよ。使うけど」
「あぁ…私のが、大輝の穴に…っ」
「あんたすげぇな。鼻にティッシュを詰める行為で興奮できるとかありえねぇよ」
軽い恐怖である。
「…というか、もう一度聞きますけど。、なにゆえ俺は連行されてんですか」
「…ふぅ。しつこい奴め。昼食を食べるためだと言っただろう?」
「……いや、だから。わざわざ昼飯食うのに、なんで俺は連れまわされてんすか」
「なんだ。そんなことか」
そこで先輩は初めて歩みを止め、襟から手を離したかと思うと、俺の頭を鷲掴みした。
「おおう⁉」
「それはな、お前がクラスメイトに邪魔をされ、昼食が食べられないんじゃないかと心配したからだ…べっ別に、お前のことを心配してない訳じゃないんだからな‼正直お前が痛めつけられていないかどうか心配していたんだからな‼」
「痛い痛い痛い」
目下痛めつけられている後輩がここに一人。
子犬を高い高いするかのように俺を持ち上げる先輩。問題は俺を支える部分が脇ではなく頭部であることだ。
「…ん?どうした?白目をむいて。私のツンデレにキュンとしたのか?」
「………あの……突っ込むことすら…できないんすけど…ハナシテ…ハナシテ…」
「ん?」
ぱっ。
「おぐぅ⁉」
そのまんま手を離しやがった。
「………大丈夫か?大輝…」
「……オコシテ……オコシテ」
「お…おう…」
先輩に差し出されたてをよろよろと掴みながら、俺はもうろうとする意識で考えた。
…これ、A君の脅威から逃れられたとはいえ、死の確立は変わってないのではなかろうか…?
「はぁ…はぁ…大輝の髪…はふはふ」
……むしろ上がってはしないだろうか…?