第三章 名前3-1
今回は結構胸糞展開です。苦手な人は気を付けてね☆
「やぁ神谷君♪」
「…うっ」
翌日、この阿呆とかち合うことが目に見えていたので、いつもより42分程遅めという予測して待ち伏せることなど不可能に近い時間帯に登校したにもかかわらず、邪悪なニコニコ笑みで俺をむかえたA君だった。
「昨日はごめんね…俺、自分から言ったこと、無視しちゃった…」
「………いや、俺ももっと先に知らせるべきだったんだよ…すまない」
…何を企んでいる?…またカッターか…?…コイツを後ろにしておくのはまずいな…。
「…そっか…ありがとう」
…握手…?毒針でも仕込んでいるのか…?…いや、コイツにかぎって、そんなあっさり殺すことなどしないだろう…同じ理由で麻酔も却下。ここはのっておくか…。
「ん…こちらこそ」
「…それで、さ。今日はお前に詫びを兼ねて、ある催しものを準備してるんだ」
「…へぇ、ありがとう」
………きやがったなクソが。
「さ、教室に行こう?みんな待ってるよ?」
「うん。わざわざありがとう」
………覚悟を決めろ大輝。どんな手段を使っても生き延びるのだ…。
「ん。着いたよ大輝。ささ、どうぞどうぞ」
「うん」
…考えろ。俺ならどうやって惨たらしく殺す?
…で落ちのドアは基本だ…恐らく開けたらレンガでも落ちてくるのだろう…ならば窓でどうだ?…不可、だ。今日はなぜか朝からカーテンが閉められている…死角からバットを振り下ろされたら終わりだ…。…ならば、可能なのは一つしかない…!
「それじゃ、失礼します」
それは通常の窓より一つ上部に存在する小窓…!バット野郎が構えていた場合、これなら回避でき
パシュッ
「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい⁉」
ばっ馬鹿な⁉こ…これは‼網‼‼‼
ものすごく丈夫な網が、俺を包み込んできた‼‼
「…チ。やはりというべきか。貴様には用心し過ぎるという言葉は通用しないらしい…予備を仕掛けておいて正解だったな…」
俺が罠にかかったウサギのようにもがいていると、いままでの気色悪いねこなで声を、いつもの不快な声に戻してA君が近寄ってきた。
「だが…ククク…無様よのぅ大輝ィ…きかかかかかかかかか」
身動きが取れない俺の頭をぐりぐりと踏みつけつつ、ヤツは邪悪に嗤う。…軽くいじめである。
「くっ…畜生が…つか、予備でこれだと…?ならば本命は、一体どのような拷問器具が…?」
踏みつけられたまま、無理やり首を動かし、ドアを睨みつける。
しかし。
「…は?」
そこにはバケツが一つ。…恐らくドアを開けると中身が落ちるギミックなのだろうが…なんだ?あれが本命?…どういうことだ?
「ん?気になるか大輝?…いいだろう…おい」
A君は口の端を不気味にゆがめ、近くにいた男子(バット所持)に顎をしゃくり、持ってくるように指示をだした。
「…いや、なんで貴様ごときの指示をあの人は聞いているんだ…?貴様ごときの。ごときの」
「いやな。お前を殺すのは簡単なことだが、周りの生徒に危害が及んだら忍びないだろう?だから全クラスメートに協力を仰いだだけだ」
「…いやだから。その指示をなんで聞いてんのかっつってんだよ。ごときの」
「馬鹿めが。それだけ貴様の罪は重いということだ…お、ありがとう」
……いやいや。さすがにそれだけで……いや……マジか。
「…さて大輝、これがお前の疑問の正体だ」
「…なんでぇ…なんで俺こんなことになるためにさらなる苦行をsくっさ⁉」
実は俺はとんでもない失態を努力して行ってしまったのかもしれない。そんな苦悩を、ヤツが差し出してきたバケツに入っている液体の匂いが全部吹き飛ばしてくれやがった。
「いや、酸っぱい‼酸っぱいよこれ⁉」
「当たり前だ。バッテリー液なんだから」
「バッ⁉」
バッテリー液だとぉ⁉馬鹿じゃねぇのかコイツ⁉何小学生の悪戯を血みどろの殺戮兵器に昇華させてだよ⁉
「さて。これからコレをお前にぶっかけるわけだが」
「なに平然と恐ろしいことほざいてんだこの阿呆‼冗談も大概にしろよてめぇ‼」
「…冗談?」
…………まずい…非常にまずい…。
こいつはあれだ。自分が起こす重大さを分かったうえで開きなおってる屑だ…分かってなくてやるキッズよりたちが悪い…いや…ほんとどうしよ…⁉
「フン…だが俺も鬼じゃねぇ…だから一つチャンスをやろう…」
「あ゛あ゛⁉ふざけんじゃねぇこのクソが‼どのきったねぇ口がそのセリフ吐いてんだ⁉くっそ‼この網猛獣捕獲用の網か⁉どうやっても抜け出せねぇ‼」
「…おい。聞けよ。垂らすぞ」
「ひっ…なんだよ畜生‼」
「もし、お前が、橘様と早峰様と、生徒会長様の電話番号を教えてくれたら。なおかつ一生俺の下僕として誠心誠意尽くし、俺を様付けで呼び、靴を舐めるのであれば。…爪をはがす程度で勘弁してやろう」
……………ここまで屑で馬鹿で阿呆で考え付くことがすべて虚数の彼方までぶっ飛んでいて、そのくせどうせライン登録したいんだろうけど無視されるに決まってる未来はなぜか想像できない気持ち悪い人間は生れて初めてだぜ…というかこんなヤツ二次元でもそうそういねぇぞ…。
…だが、背に腹は代えられない…番号と?尽くすのと?靴舐める?…あぁあと様付けか…命と引き換えには安いもの…あ。
「…はぁ。俺死んだわ」
「…なぜだ?プライドか?言っておくが生ごみにプライドを持つ権利など存在しないからな」
「…いや、確かに先輩以外の番号知らないけど…」
「なら先輩だけでいいわ。ほれプリーズ。ぎぶみーなんばー」
「それよりもっと重大なことがあんだよ」
俺は、眉をひそめるA君の瞳をじっとみつめ、静かに切り出した。
「…俺は…お前の名前を知らない‼」
「……ぇ」
ピシィッッッ‼‼という幻聴が、A君から聴こえた。…気がする。
「………いや…え?言ったよね…俺?…ちゃんと…」
「知るか。覚えてねぇんだよ。興味ねぇから」
「…………………ゎ」
「は?」
「井沢だよ馬鹿ぁ‼うわああああああああああああああああああああああああああああん‼」
なにやら急に発狂すると、A君はキラキラと目じりを光らせて、走りさっていt
びっちゃあ‼
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉バケツほっぽりだしてんじゃねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉」
運よく俺の真反対に、劇薬はじわじわと広がっていく…。…危うく俺の体が全身大やけどするところだった…。
とはいえ、ヘッドが居なくなったことで、ほかの奴らは統率を失っていた。…みんなどうしたらいいか分からず、ざわ・・・ざわ・・・してやがる。A君がメンタル弱いキッズで助かった…ん?いや、ちょっと待て。
「お、おい⁉俺をこのままにすんじゃねぇ‼出せ‼いや出してください‼」
…まぁ助けが来るはずもなく。
俺は遅れてきた国語の教師にこっぴどく叱責を受けたのであった。
…いや。マジで納得いかねぇ…。
関係ないけどバッテリー液の約37%は硫酸らしいです。まったく関係ないけど。