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俺の青春は灰色のようだ  作者: 赤ワンコ
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第二章 実状2-2

 さて、俺がどれだけ後悔しようとも、次にアイツらに会ったら絶対殺されるなぁ…などと事実を客観的にとらえるることによる現実逃避を決行しようとも、時間は無常にも過ぎていく。

 つまるところ。

「よし、着いたぞ大輝。…?どうした?まるでクラスメイトから嫉妬という名のナイフを大量に投げつけられて人間不信になってしまった過去を持つ主人公のような顔をしているぞ?」

「…会長さん、俺は今、あなたが読心術の才があるという可能性と、俺の窮地を教室の外から眺めていた鬼畜の可能性と、どちらが正解なのか深刻に悩んでいるのですか、果たして正解はどちらなのでしょうか?」

「……会長はやめてくれないか?」

「オイ待てこらヒロインの過去話を打ち明けるかの如く深刻な顔をして意味深な台詞言ってますけど、さらっと俺の質問スルーしてんじゃねーですよ」

「実は、そう呼ばれるのはあまり好きでなくてな」

 俺のささやかな抗議をすさまじく可憐にスルーしやがると、会長はこちらに顔を向け、淡く微笑んだ。

「出来れば…先輩、もしくは藤島にしてはくれないだろうか?」

「おっと思ったより親し気な呼び方。ちょっと意味が分からないですね」

「そうか…お前が望むなら、可憐ちゃんでも構わないぞ?」

「先輩、呼び方の件も済んだことですし、そろそろ部室に入りましょう」

 ……この女…俺を心労で殺す気か⁉可憐ちゃんと一回呼びかけるごとに俺のライフが12年はゴリゴリ削られるわ‼

「…むぅ…可憐でも、藤島でもなく、先輩か…まぁ…いいだろう」

 一体なにに不満をお持ちなのかこの先輩は。

「それではお前の要求通り、さっさと部室に入ってしまおう。もちろんほかの二人はもう来ているぞ?」

「なぁん⁉」

 逃げるように部室へ入ろうとした俺に、さらっと先輩からのトンデモカミングアウトである。

 …いや、俺が遅れていたのだから、そりゃ来ていておかしくないのだが…やべぇ超緊張する‼俺今日ちゃんと髪整えて来ていたよな…?顔とかなんか変じゃないよな⁉あぁさっきの乱闘で制服ボロボロじゃねぇかふざけんな!うっわクリーニングだしてぇ…第一印象はやっぱりでかいし、今日は帰ったほうが良いんじゃなかろうか⁉

「おい。お前が何を考えているのか知らんが、自分の制服をしかめ面で見ながらじりじり後退して、そのまま帰ろうなんて、わざわざ私が迎えに行ってやった恩をドブに捨てるがごとき行為に及ぶつもりなら、しかるべき対処をしなくてはならなくなるぞ。具体的に言うと、泣きながらお前の足に縋りつくぞ?」

「………………」

 んなことされたら、俺の心臓が爆発するのはもちろんだが、その前に俺たちを見た野郎どもにタコ殴りにされかねない。

「……ふぅ」

 深呼吸をし、覚悟を決め、改めてドアノブに手をかけた。

 …やはり最初はさわやかな気持ちの良いあいさつからか…その後、この汚い制服を逆に利用した自虐ネタに走ろう。それで少し距離を縮めて、最初の顔合わせを成功させる!

 うん!完璧!

「っしゃ!行くぞ!」

 がちゃ…

「やっやあ。こんにち」


「ひゃっはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ねぇどんな気持ちィ!レア5で固めたキャラがレア3以下に蹂躙された気分はよぉ‼ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは‼」

「くっくく…この我こそが新世界の神…我に歯向かう愚民ども…恐怖しろ!絶望しろォ‼ははははははははははははは‼…げほ」


 ………………。

 あ…ありのまま、今、起こった事を話すぜ!おれは、バラ色の部活動空間に入ったと思ったら、いつのまにかそこは阿鼻叫喚の地獄と化していた。な…何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのか、わからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか影武者だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を、味わったぜ…。

「…おい。何故閉めた。さっさと入れというに」

「…………イエ。ダイジョウブデス…」

 いや…そうだ。やっぱり幻覚だ。さっきの死闘の疲れのせいだろう。まったく…どうかしてるぜ!

 がちゃ…

「あら…どちら様でしょう?いかがなさいました?」

「………………」

 ……あれ?

 い、いや!やっぱりね!思った通り!噂どうりの二人だ!はぁ早峰さんマジ天使。そのほわほわ感で昇天しそうですわぁ。おっとクールに橘さんは何をお読みになってるのかな?それにしても読書姿が似合うなぁ…これだけでご飯3杯は余裕ですね!

 …………………うん。

「どうしたのだ?二人とも?コイツは新しい部員だぞ?いつも通り過ごしていいのだぞ?」

 ……?せんぱい が ふしぎ な じゅもん を となえた


「オイコラハゲェ‼ドアを開けるときはノックが基本だろォが‼一般常識も身についてねぇクソガキが義務教育すっぽかしてんじゃねぇぞテメェ‼」

「…我の真の姿を謁見することが許されるのは選ばれし血を引きし賢者のみ…貴様…極刑ではすまさんぞ…?…びっくりした…」


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおお‼やっぱり現実じゃねぇかああああああああああああああ‼」

 俺はきっちりドアを閉めてから、絶望の雄たけびとともに崩れ落ちた。

 …まぁそりゃ、そんな簡単に幻覚なんぞ見るわけないから…うすうす分かってはいたが…。

「ウム‼それでこそお前らだ!ここではよけいな気を使うことはないのだぞ‼」

「な…うれしそう…だと?」

「ん?どうしたのだ大輝?お前も俯く必要はない。さぁ見てみるがいい‼」

 俺の呆然とした表情を真正面に受けながらも、彼女はその大きい胸をそらしながら叫んだ。

「この素晴らしき光景!美しき談話部を‼」

 …………………これ、どうしようかねぇ………。

 ☆


「談話部というのはな!大輝!表向きは部員たちと仲良く談笑し、人間としての道徳心を育むことで、コミュニケーション能力の向上を目指し、これからの日本社会を担う若者を…聞いてるのか?大輝?」

「そうですね。聞いてません」

「…いや、聞けよ」

 んなこと言われても無理なもんは無理である。

 目の前で先輩が足を組んで話しているだけでもクるものがあるのに、うるさいバックコーラスのおまけ付きである。逆にどんな鋼の意思がありゃニコニコできるっつーのか。

「………あんまり素っ気ないと、泣くぞ?」

「………続けて、どうぞ」

 女としての権威を振り回すヤツほど厄介なものはない。…それが美人だったら、なおさらである。

 …怒るに怒れねぇ…。

「うむ!…だがまぁ、さっきまでの部活レクチャーという名の綺麗ごとは全て建前なんだがな‼」

「おい。なんのために俺は心をチクッと痛めたんだ」

「…本当はな、人前で出せない本性をさらけ出す場なのだ」

 どうやらこの先輩、人の話をまったく聞かないたちらしい。そのくせ相手には聞けとか言ってくるのだからどうしようもねぇ人である。

「…本性、ですか?」

「あぁ…そうだ」

「…ふむ」

 俺はその言葉を吟味し、一度深呼吸を挟んだ後、自分の背後、すなわち二人の美少女の方へと視線を変えた。


「はいザコォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオおオオオォォォオオオ‼課金ばっかしてくるからだよ間抜けがァ‼ぎゃはははははははははは‼」

「クハハハハハハハハハハハハハハハハ‼思い通り!思い通り!思い通り‼愚策にも程があるわ‼だがまだだぞ…もっと我を楽しませろ‼クハハハハハハハハハハ‼」


 …………………。

「…………何かにとり憑かれてるのでは?」

「………お前、案外辛辣なのな」

「…すみませんね。嫌いになりました?」

「いや。むしろ良い。特に、相手が可愛いからと言って甘くならないところとか。とても良い」

「………サイデスカ」

「まぁ、それは置いておいて、だ。…大輝、お前は人に言えない趣味だとか、そういうのはあるか?」

「そうですね…自分はストッキnいや、なんで言わなくちゃならんのですか⁉」

「ちなみに私は髪フェチだ」

「聞いてねぇよ⁉なにカミングアウトしてだよアンタ‼なに⁉私も言ったからお前も言え的な⁉卑怯ですよそれ‼」

「そう、人には誰しも、ストッキングのような知られたくない秘密というのがあるものだ」

「なに靴下脱いでんすか‼いやポケットからストッキング出さなくていいです‼好きなだけで別にそこまで見たいとは思ってないですから‼」

「…だが、それがあまりに大きなものだったら?ストッキングや髪フェチだとかは、正直だれも長期にわたって記憶にはとどめんだろう。…しかし、それが、バレようものなら人付き合いに支障をきたすようなものだったら?……そんなもの、死んでも隠し通すしかなかろう」

「…そんな悲しそうな顔で靴下戻さんでくださいよ…わかりましたよ。ストッキング超見たい。ちゅぱちゅぱしたい」

「だが、そんな生活は苦行以外の何物でもない‼だから私は、そんな悩める者たちの救済場を造りたかったのだ‼ここでは本当の自分をだせる‼誰にも気兼ねなくさらけ出せる‼そんな空間を‼」

「いや足を口元に持ってこんでください。言葉のあやです。なんか無理です見るだけでお腹いっぱいです

…ゴクリ」

「だから、だ。大輝、彼女たちのことは大目に見てやってくれないか?」

「…別に面と向かってどうこう言うつもりは毛頭ないですよ。つーか言っても聞かんでしょうよさわさわ」

「ん…っ。そ、そうか、なら良い…私がお前に言いたかったのはそれだけだ…ぁ」

 …はっ⁉手が勝手に⁉

「…ん?な、なんだ…もう止めるのか?」

 なんで残念そうなんだよ。

「……むぅ。…よし、大輝。私の話を聞いてくれた礼だ。何か質問はあるか?私もスリーサイズぐらいなら答えてやろう」

「そうですか。なら、どうしてあの二人がこの部活に選ばれたのかと、その理屈で言うとなんで俺がこの部活に入ることになったのかということが聞きたいですね」

「上から91…」

「だから聞いてねぇつってんだろうが人の話聞いてんのか」

「そう、そういうとこだ。そこがお前をこの部活に引き入れた理由だ」

「………は?」

「お前は私に対しても気後れなく接している。なかなかいないんだぞ?お前みたいに容赦なく突っ込んでくれるヤツは。というか大体はどもってしゃべらなくなる」

「……………」

 それは…喜ぶべきことなのか?…まぁ、喜んで良いだろう。…うん。

「さらに言うと初対面で『うゆゆ~ん☆』とか言う馬鹿はそうそういない」

「いや違うわ喜んじゃいけないトコだ‼ち、ちゃうんですよぅ‼あれは先輩がインパクトが足んないとか言うから仕方なく‼」

「たとえそうだとしても『うゆゆ~ん☆』とか宣う阿呆はお前しかいない』

「…ハイ。ソーデスネ」

 あたりまえである。完全無欠に俺の自爆である。

 …しにたい。

「…じゃあどうしてあの二人は入部できたんですか?」

「ん?聞きたいか?」

「…お願いします」

 じゃないと羞恥心に耐えられずネットでとりあえずカートに入れたロープを確定購入しかねない。

 何かで気を紛らわせなくては。

「ふっふっふ…聞きたいかァ?」

「…あくしろよ」

「し、死んだ魚の目で言わないでくれ。犬のマネをしかねないぞ…」

 そこでコホンと可愛らしく咳払いをし、先輩は当時の面接を再現し始めた。


 早峰さんの場合

 (先)「入れ」

 (早)「失礼致します…」

 (先)「…は」

 (早)「?どうされたのですか?」

 (先)「…いや、その…そこまで堅苦しくしないでくれ…」

 (早)「…?どういうことでしょう?」

 (先)「いやいやいや…他の奴らの目はごまかせるかもしれんが、私には無駄だぞ」

 (早)「………」

 (先)「ほら、自分をさらけだせ。でないとインパクト絶大のお前でも入部させてやれないぞ?」

 (早)「……しつけぇよ駄目なら駄目って言えやコラ。わーったよさらけだしてやんよこれが俺の全てだ文句あるかよコラ‼」 

 (先)「採用」

 (早)「…………あ?」


 ………なんでだよ。

「いや、何か隠しているとは直観で理解してはいたが…まさかここまで大物だとはな‼嬉しい誤算というやつだ‼」

 驚いた。世の中には。初対面で罵詈雑言を浴びせられて悦ぶ女子高生がいるらしい。

 …世界は広いなぁ…。

「おい。何故遠い目をして…っは⁉お前もタメ口で会話したいのだな⁉」

「ちげぇしなんかもう既にその片鱗があることに真剣に悩まなくちゃならなくなったじゃないですか…」

「なんだ違うのか。…つまらん」

 この人にとっては敬語はつまらないものなのか…。

「まぁ良い。次に行くぞ」

 

 橘さんの場合

 (先)「入れ」

 (橘)「…失礼します」

 (先)「うむ」

 (橘)「………」

 (先)「………」

 (橘)「…………………」

 (先)「…………………」

 (橘)「…………………………」

 (先)「………………なんかしゃべれよ…」

 (橘)「ぅ………ククク…我が一族が、貴様と口を通わすことを拒否している」

 (先)「採用」


 ………わかった。この人ただのМだ。

「いやあ‼厨二って実在したのだな‼」

「……いや、確かにそこも気になる部分ではあるのですが、そもそも二人なんか入部する気ないじゃないですか。なんでそれで面接来たんですか」

「他の人と歩幅を合わせた結果らしい」

「…日本人ェ」

 出る杭は打たれるの精神である。気持ちはわからんでもない。しかしそのせいで先輩に気に入られた彼女たちの心境は計り知れない…。

「質問は以上か?なら結構‼これから一緒たった一度の青春を謳歌しようではないかっ‼よろしくな‼大輝‼」

「………」

 俺は無意識のうちに、差し出された先輩の手を掴んでしまってから、ゆっくりと後ろを見た。

「はいっクソオオオォォォオオオ‼ただの課金ゲーじゃねぇかクソが‼はぁマジ運営クソだわぁガチャ渋ってんじゃねぇよクソ雑魚ナメクジがァ‼」

「…………く…くく…われがまけるはずないもん…われはさいきょ~なんだもん…うぅ」

「ははははは‼私も混ぜろぅ‼なんのクソゲーをしているのだ⁉」

「…………はは」

 …………ここで?俺は?青春を?過ごすのか?

 …………………どうやら、俺の青春は灰色で塗りつぶされたらしい。

今回はいつもより長くなってしまいましたねぇ…次からはもう少し分割し、読みやすくしたいと思います。

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