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俺の青春は灰色のようだ  作者: 赤ワンコ
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第一章 談話部1-2

 そんなこんなで放課後である。

 先人たちの、無茶だ無謀だというありがたいお言葉を背中に受け、俺たちは教室を後にした。

 …正直、緊張しすぎて吐きそうだ。ここを落ちたら行きたくもない部活に入らなくてはならないという現実に、目がくらみそうになる。

 小さく溜息をつき、チラリとA君の方を見た。面接会場という我らの戦場まで、黙々と歩き続ける彼の凛々しい背中に、俺は漢を見た。

 …それだというのに…俺は…。

「…なぁ、神谷」

 気づくと、彼は歩みを止めて、俺の顔をじっと見つめてきていた。たまらず目をそらす。

 …俺には、その目を見る資格は…ない。

 怯え、ただ震えるしかない俺に、このまっすぐ夢を追い続ける瞳を、真正面から受けることなど、決して。

 いまだ目を伏せ続ける俺に、彼はゆっくりと呟いた。

「…もしも…もしもだぜ?もし…俺たちどっちかしか受からなくてもさ…恨むのだけは、なしにしようぜ…?少なくとも俺は…お前が受かっても、恨みはしない。だから、その…心配しないでくれ」

 そのとき、俺はハッとした。 

 彼は、緊張していない訳ではなかった。 

 俺のように、これからすることの重大さに恐怖しつつも、それでも前を見続けていたのだ。

 …他人の心配すら、できる程に。

 気付くと、俺の震えは止まっていた。彼の優しさ、思慮深さに、俺の恐怖は消えていった。

 俺は、A君の視線をまっすぐ受け止め、不敵な笑顔さえ浮かべながら、力強く応える。

「当たり前だろ?そもそも、お前が教えてくれなけりゃ、俺は談話部の存在すら知らなかったんだ。感謝こそすれ、恨むなんて、するわけないだろ?」

 その言葉に、彼は大きく目を見開いた後…同じくニヤリ、と笑い返してくれた。

 自然とお互いの拳を打ち付け、俺たちは戦場へと向かう。

 …今度は、迷いなく、しっかりと…!

 ☆


【☆面接官の都合により、入部面接は16:00までとさせていただきます。ご了承ください☆】


 …意気揚々と踏み出した結果がこれだよ…。

 顎を落としながら見た時計の針は、15:52を指している。 

 …必然的に、誰か一人しか面接は行けないわけで。

 意見を求めようと視線をずらした先には、ニコニコと綺麗な笑みを浮かべた面と、対照的に青筋を浮かべた右こぶしが。

 …なぜだろう。聴覚には何の振動もキャッチしていないのに、「神谷ぁ…どかねぇとその面ぼっこぼこに成形すっぞコラ…」という彼の言葉が聴こえた。

 俺は引きつった笑みで、面接会場の扉を両手で示した。いわゆる、『どうぞどうぞ』である。

「じゃっ行ってくるゼッ!」

 彼は、キラキラと歯を輝かせながら、面接会場に突撃して行った。

「…はぁ…」

 俺は思いっきり深いため息をつき、壁によろよろともたれかかる。

 …まぁ、普通に考えてA君が優先だろう。彼が教えてくれなければ、そもそも俺はここにいない。

 とはいえ、これから新たな部活を探さなくてはならないという事実が重すぎる。

「むぅ…あ、そうだ」 

 せめてもの駄賃である。数々の戦士を打ち取ってきた面接とはどのような物なのか見てやる。

 A君が勢いよく開け放った扉の隙間から、どんなものかとチラっと覗いて、

「ブフッ⁉」

 吹き出した。

 なんとその面接官とは…噂の生徒会長、藤島可憐サマだったのだ。

 一応面接の邪魔にならないように気を付けながら、ヘナヘナと座り込む。

 …恐らくこれは、面接ができても、俺は確実に落ちていただろう。こんなん緊張して気絶してもおかしくない。

「こんにちは!」

「…ま、まじか…」

 そんな中、A君は鋼の精神で大きな声で挨拶をしていた。まじぱねぇ。第一印象は最高だろう。

「一年五組、二番n」

「帰れ」

 おおう…A君、さらに根性の自己紹介である。普通あいさつの後には、ちょっとどもったりするものなのに、それを物ともしない覇気だ。…これは受かったかなぁ…まぁ恨みっこなしって言ったしなぁ…。ちょっと悔しいきもするけど、仕方n


 ん?


 …なんか今、変な言葉が聞こえた気がしたけど…え?嘘だろ?え?

「…え?いや…その…(A君)」

「帰れ」

 マジだった。ガチだった。気のせいの余地なく本気だった。

 …嘘だろA君…名前言う前に敗れ去ったぞ…?

 つか、えぇ⁉なんだよそれ!そりゃみんな落ちるわ!というか何が駄目だったんだよ今の!

「お前にはインパクトが足りん」

 うわちょっと心読まれた気分だ…って違う!なんつー暴論だよそりゃ⁉インパクトってなんだよ哲学かよ⁉そもそもあのはきはきとした自己紹介にインパクトがないのかよ!

 俺が心の中で突っ込みながら呆けていると、扉がギィ…とゆっくりと開いていき、顔を絶望一色に染めたA君がヌッと出てきた。

「………………神谷」

 なにかものすごく泣きそうなA君が、ようやく口から出た台詞とは。

「………………………インパクトって…なんだろうな……」

 それが、彼の最期の言葉だった。

 左腕を上げ、止まらなそうな姿勢で突っ伏すA君に、俺は安らかな眠りを祈って合掌した。

「…ん?まだ居るのか?なら早く入って来い。少年」

「…は?」

 その言葉に、慌てて時計を見る。15:54。…マジか。

 思わぬ幸運が舞い込んできたわけだが…果たしてどうしたものか?はっきり言って、こんなもの行ったところで結果は変わらないだろう。そもそも緊張していることに加えて、理不尽無慈悲面接の追い風である。 

 どないせいっちゅうねん。

「…はぁ。どうした、早くしろ。うじうじしていても変わらんだろうが…」

 …なんだと?

 その台詞に、あきらめかけていた俺の心に、小さな、しかし確かな炎が浮かび上がった。

 なにも、変わらない…?…言ってくれるじゃねぇか…!

 インパクトが必要なんだろう…?なら望みどおりインパクト全開の面接をやってやろうじゃねぇか‼

 

 …さて。全てが終わった今のこの状況から言わせてもらうと…この時の俺は狂っていたとしか思えない。

 A君の無念の死。さらに煽るような先輩の言葉に、俺はかなりハイになっていた…のだろう。

 ……正直思い出したくない。


 俺はA君を見習って大きく挨拶をした後、思いっきり扉を蹴り破り、目を丸く見開いてふんぞり返っている先輩に向かって、


「うゆゆ~ん☆神谷大輝だゾ☆よ・ろ・し・く・ねン♡」


 …おれはこの日、晴れて談話部に入部することができました。

 ………大切ななにかを捨てて。

 


 




 

やっと談話部に入部しましたねぇ…正直疲れた…。

でも頑張りますよぅ!きっと誰かは見ていると信じてっ!(涙

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