第一章 談話部1-1
「談話部?」
その悪魔の単語を初めて耳にしたのは、校長先生の入学式での一言、「入部必須」を聞いて、4日間絶望に暮れてからだった。
「そう、談話部」
そうにこやかに微笑みながら復唱してくれたのは、たまたま隣の席になっただけなのに、俺の知らない情報を色々教えてくれた凄い良い人、A君(名前を忘れたなんてアイツの前では口が裂けても言えん)だ。
小・中学生と慣れしたんだ故郷から、涙ながらに出てきた身としては、このように仲良く接してくれる人は貴重である。というか正直、あの時は本気で泣きそうだった。
「俺も中学生までは部活には入ってなくてよ、だから入学式の時に絶対参加って聞いた時にはマジでビビったよ。でもだからってさ、いきなり運動部に入るってのはキツイじゃん?で、俺色々調べたんだよ。そしたらさ」
ものすごく饒舌にペラペラと説明してくれるA君。その姿はまさしく使徒に教えを説く神そのもの…に見えた。
「見つけたんだよ。最高の部活を!」
「…それが談話部…と?」
「おう」
A君はニヤリと口を曲げ、指を指揮棒のように揺らしながら続ける。
「文芸部のように文章能力はいらない。美術部のように画力はいらない。この部活は名前の通り、ただ楽しく会話をするだけだからな」
「へー」
もしそれが本当だとしたら、自分のような陰気にとって救いの手以外の何物でもない。
「でも、よくそんな変な部活受理されたなー。普通ありえなくね?」
「それなんだが…いや、その話こそが本題なんだがな…」
答えを求めていない呟きだったのだが、それに対しずずいと顔を向けて、彼は真剣な顔で応えた。
「この談話部…実は3つの謎が存在してるんだ」
「3つかよ」
そこは7つだろ。
「まず一つ…部活には必ず部長がいるだろ?…どなただと思う?」
「どなたって…」
とりあえず鼻と鼻がくっつきそうなほど近づいてきやがったので押し返しつつ、その質問の意図について思考する。
「えっと…どなたってことは、あれだろ?偉い人っぽい感じだよな…。うーん?どっかのお姫様?」
「は?」
「そんなマジのリアクションしないでくれよ!恥ずかしいだろ!そ、それより誰なんだよ!」
「…まぁいいや。答えはな…」
そこで律儀にもったいぶって、彼は回答を口にした。
「生徒会長サマ、…なんだよ」
「生徒会長って…そりゃ…」
俺の頭に、入学式の記憶がよみがえる。
それは新入生歓迎の言葉。来賓の方々の祝辞という、その前にあった校長先生の衝撃の真実をものともしない強烈な眠気を誘う呪詛を一瞬で解除してくれた女神。容姿端麗を具現化したかのような美しきヴィーナス。
「そう。その御方こそ、今ここで話題になっている部長兼生徒会長サマ、藤島可憐である」
A君。何故か得意げである。
「フーン…で?それの何が三不思議?」
「え?いや…すごいだろ?だってあの御方、生徒会長兼部長という超多忙な学校生活を送っているというのに、学年成績常に上位なんだぜ?」
「まぁ…それはすごいけど」
「あ、あと一年で生徒会長になってるし」
「何故それを先に言わない」
マジかよ…普通生徒会長って二年の誰かがやるもんじゃねぇのか…?というか立候補したところで教師の「分かるだろ?」的な圧力でもみ消されるもんじゃねぇのか…?
という風に、生徒会長のすごい(…とはいえまぁ七不思議的視点から見てみると地味な)一面におののいていると、
「んで、二つ目。入部するためには面接に合格しなくちゃならん」
「ファッ⁉」
ちょっと待て!ふしぎ1と2の差が回転ずしと江戸前寿司くらい差があるんだけど⁉
「なんでだよ。どっちもうまいだろ、カルビとかラーメンとか」
「少なくとも寿司の話をしているとは思えんラインナップだが、美味しいことは認めよう…って違う!なんで部活に面接があるんだよ!もういいよ高校受験でこりごりだよ!というかそんな面倒くさい部活に誰が入ろうと思うんだよ!」
「不思議その三。その談話部におおよそ全ての新入生が挑んだというのに入部出来た生徒は二人です」
「……………なんだそれは…。たまげたなあ」
その話、まったく知らないんですけど。新入生がほとんど行っていたことを、片鱗すら掴めていなかったんですけど…。あれ?普通に俺ハブられてんじゃねぇかそれ?…いや、それも少し、いやかなり重要案件だが、今は棚に置いておこう。
それはともかく、だ。
「なんだよそれ!ほとんどムリゲーじゃねぇか!それなんてアイ〇ナ⁉」
「談話部」
PRESS 'R' TO TRY AGAIN
「違う。そうじゃない。部活ってなんだっけ?部活ってそんな倍率を気にしなくちゃならないものなの?というかその受かったヤツら誰だよ」
「早峰さんと橘さん」
「これはもうわかんねえなぁ……」
橘さんと早峰って…マジかよ…?
「早峰姫華。入学初日からその美しき金髪と物腰やわらかなな雰囲気で本学の主に男子生徒を虜にしたお嬢様系美少女である。橘美咲。同じく初日から異彩を放っていた女性。クラスの生徒とと慣れあうことをせず、ただ黙々と読書に耽るその姿は、まさしく文学少女であった」
「…うん。まぁ、そうなんだけどさ」
誰に説明してんだよ。
「どうした?美しい女性の素性は隅々まで調べるのが基本だろ?」
「そこにどもってるんじゃねぇよ。さらに今の台詞でお前と口利きたくなくなったわ」
「まぁそう言うなよ。俺と口利かなくなったらお前マジでボッチになっちまうぞ?」
…………………コイツ。
「はぁ…じゃあそこはいいわ。でもさ、そんな説明された後に入部しようという気分にはなれないんだけど…。絶対無理じゃん」
「そう言うなよ。諦めんなよ。やってみなくちゃ分かんないだろ?」
「……………むぅ」
確かに、やってみる前から諦めるというのはよろしくない。どうせどこかの部活には入部しなくちゃならないのだ。このまま渋っていては、やりたくもない運動部をやらなくてはならなくなる。…そんなことなら、当たって砕けろ精神で、チャレンジしてみるほうが良いのではなかろうか?
俺はチラリと、瞳に力強い意志を映しているA君に視線を移す。
彼は、黙っておけばライバルが増えることも無かったのに、席が近かったというだけで話してくれた善人だ。…その行為を無下にすることが、果たして最良と言えるのか?
…そんな訳がない。
「…悪かった。駄目でもともとだ。やってみy」
「なぁ頼むよ。成功すりゃあ美少女に囲まれたムフフイベントが強制発動すんだぜ?行くしかねぇだろ?一人で行くのは恥ずかしいんだよ。とりあえずお前が先にやればなんかその恥ずかしさが軽減されんだから…なぁ?」
「欲望丸出しじゃねぇか。我欲の塊じゃねぇか。返せ、俺の真面目な解釈タイムを返せ」
とりあえず力尽きたところまで上げさせてもらいます…続編はもう少しお待ちください…。