合言葉
全国高校野球選手権大会県予選。僕と奈美、そしてキャプテンの岸の三人で組み合わせ抽選会に望んだ。参加校は56校。シード校の4校の名前は既にトーナメント表に記載されている。第一シードの明応と書かれた文字に思わず目が行く。くじはキャプテンの岸が引いた。
“38番”
引いた岸がにっこり笑った。明応とは決勝まで当たらない。
「上出来だ。最終的には明応を倒すんだが、僕たちはまだ発展途上だ。試合を重ねながら成長していくチームだからな」
一回戦の相手は県立北高校。秋の大会では4-3で退けている。実力的には同等だと言える。先発は宮崎。関根をセンターで起用した。結果は7-0、8回コールド勝ちだった。
続く二回戦。今度は関根に投げさせた。打線が振るわず、2-0と辛勝。2点は岸のランナー瀬田を置いてのランニングホームランだった。
三回戦。宮崎が先発。打ち合いになった。逆転に次ぐ逆転で6回終わって5-5の同点。そして、7回に1点をリードすると、リリーフの関根がピシャリと抑え、7-5で逃げ切った。
4回戦、準々決勝。第3シードの星章高校との対戦になった。関根が先発し、7回まで相手打線を“0”に抑えた。しかし8回裏に味方のエラーで1点を失った。1点を追う9回は先頭の瀬田から始まった。瀬田は粘って四球を選んだ。すかさず、二盗。三浦が送って一死三塁。3番関根がレフトへ犠牲フライを打ち上げて追いついた。そして続く4番岸がレフトスタンドへ勝ち越しとなる本塁打を叩きこんだ。9回裏は関根が抑えて、ベスト4進出を果たした。
「10年前の再来ね」
奈美が感慨深く呟く。
「奈美ちゃん、甲子園まであと二つだよ」
岸がにっこり笑う。
「そうね。今度こそ連れて行ってね」
奈美はそう言って僕の肩をポンと叩いた。僕はただ黙って頷いた。実は準決勝の相手はある意味、明応より手ごわいかも知れないからだ。
準決勝第一試合、明応は圧倒的な強さで決勝進出を決めた。
「やっぱ、明応か」
「予定通りじゃないか。春の仮をきっちり帰してやろうぜ」
選手たちはそんな会話をしながら球場に入った。
試合は思わぬ苦戦を強いられた。先発の宮崎が早い回に打ち込まれ0-4と4点のビハインド。相手投手は変化球中心の投球。全くタイミングが合わず、無得点に抑えられていた。中盤、1年生ピッチャーの吉永にスイッチ。1イニングを何とか0点に抑えた。
回は既に7回裏。先頭の島田が四球を選んで出塁する。ピッチャー吉永に代えて代打長岡。長岡はカウントを取りに来た初球を叩いてライト前ヒット。
無死一・二塁でトップへつないだ。1番バッターの瀬田は一塁線へ絶妙なバント。無死満塁。
2番三浦は打ち上げてセカンドフライ。一死となる。
続く関根はライトへ大きな飛球を放つも相手のファインプレーに阻まれた。しかし、タッチアップから三塁ランナー島田が生還し、1点を返す。二死一・三塁。すかさず瀬田が二盗。二死二・三塁。
そして4番岸の二球目に相手バッテリー間にエラーが出た。三塁ランナー長岡が返り2点目。瀬田も三塁へ進んだ。続く岸への三球目。キャッチャーがピッチャーへ送球すると同時に三塁ランナーの瀬田がスタートを切った。慌てた相手ピッチャーは本塁へ悪送球。本盗が成功して3点目。気落ちした相手投手の球が甘く入って来たところを岸のバットが捉えた。
8回・9回は関根がピシャリと抑えた。同点で迎えた最終回9回裏は代打の後センターに入った長岡から。長岡はかつての3番バッターとしての意地を見せた。その一振りは高々と舞い上がりレフトスタンドへ吸い込まれていった。
「奈美ちゃん、あと一つ」
「奈美ちゃんを甲子園に連れて行こう」
いつしかそれがチームの合言葉になっていた。