プロローグ
今年の残暑はやけに厳しかった。9月もそろそろ折り返しだというのにほぼ毎日のように気温は30度を超える。蒼井タカトはポケットからスマホを取り出し、今日の天気を調べる。
「今日も最高31度かよ… まず朝8時の時点で28度とか意味わかんねえよ。まじ温暖化やってくれたなって感じだよ。」
タカトはこの夏休み、さっさと高校の課題を片付けてずっとクーラーのガンガン効いた部屋でぐだぐだと過ごしていた。そのためこの暑さに全く順応できず、声を出す元気もなくなってしまったので、すれ違ったおっさんを適当に脳内で責める。実際、この夏休み中エコなんて微塵も意識せずクーラーをフル稼働させていた自分のことは棚に上げて。
「たか、顔死んどるな」
しばらく歩いていると、いかにもスポーツマンらしい小麦色の青年が声をかけてきた。タカトはある元気をすべて集めて声を出す。
「レイト、開口一番それはないだろ。朝初めて会った友人にはおはようって挨拶するのが普通だろうが。いくら醜いやつに対してもだな、それくらいのマナーはまも…」
思ったより元気が集まってしまったようだ。まあ、これだけあれば今日は乗り切れるかななんてことを考える。
「悪かったって、はい、ごめんごめん。」
ふたりは中高とよくつるんできたのでお互いのことが大体わかる。そこから導いた経験則から、またいらないところの愚痴まで聞かされると悟ったレイトはいつもの通りタカトの[ブツブツ]をいなす。
「お前、今日は朝練はないのか?」
話を途中で切られて不機嫌そうなタカトは普段ならば会わない時間に出会ったレイトに尋ねる。
「今日はないな、なんかグラウンドに土を入れるとか何とかで業者が来てるっぽい。」
タカトはここで小さなため息をついた。実はタカトはレイト(黄泉れいと)と付き合いは長いものの、一緒に登校するのはあまり好きではなかった。なぜならレイトは180cmくらいの高身長で顔も凛々しく、俗に言うええ感じの高校生というやつで一緒に歩くと向けられる視線が増える気がするからだ。今少し関西弁になったのは、レイトは中学入学と同時に関西の街からこっちに引っ越してきていて、普段はほぼ標準語だがテンションが上がるとイントネーションがちょくちょく関西弁になるうえに、昔から「ええ感じの兄さんになんねん!」っていうのを口癖のように言うのでそれがタカトにも伝染してしまったからだ。もし今タカトが同じセリフを言うとエセ関西人だのなんだの言われることだろう。とにかく、このレイトの関西弁も注目を集める理由の1つであるのは間違いない。
「ええ感じの兄さんねえ、人間は食欲・性欲・自己顕示欲の3つに動かされているなんて考えてる俺には一生なれっこねえな(睡眠欲は活動するためのものでなくて活動おやすみするのためのもの)」
「はあ?なにを突然」
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気づけば1日が終わっていた。周りの生徒は部活に行き始めたり、帰る支度をしたりしている。タカトは部活に入っておらず、ろくな友人がレイトしかいないので基本一人(独り)である。趣味はないわけではないが、せいぜい将棋をしたりするくらいだ。もちろんいっしょに打ってくれる人がおじいちゃんしかいないので大抵はネットのオンライン対戦や詰将棋をしている…
しばらくすると教室から人はいなくなった。
「帰るか」
机の引き出しの中の平均65点の夏の課題テストを取り出してぐしゃぐしゃに丸め、窓際前から3列目の席を立ち、振り向きざまに後ろのごみ箱めがけてそれを投げる。しかしタカトの指から離れたごみボールは見事にごみ箱のふちにあたり、奇跡的に開いていた窓から外にとびでていった。タカトはいそいで現場の3階の窓から下を見下ろす。すると下にいた野球部員がタカトの作ったごみボールを解体し、タカトのテストを見ていたので回収はあきらめることにした。
「まあいーや、どうせコメントしづらい中途半端な点のテストだし。さっさと帰って飯食って風呂入って歯磨いて寝よ」
そうしてその晩タカトは眠りについた。明日の自分なんて1秒たりとも思い描くこともなくーー
ぼちぼちやっていきます。




