1章 続き
「あの人見て。あの帽子かぁ...総評70点。」1人の少女がそういいながら、離れた場所を歩く女性を指さす。
「あー、、スタイルはいいし、服装もいいけど、なんだっけ、女優帽?あれが邪魔だよね」
「今時ダサいよねあんな帽子。おばさんって感じ」
3人の女子高生たちが、ショッピングモールで服を選びつつ、他人の洋装に点数をつけていた。
「あ、今通った人、帽子取ったらすっごいハゲてた10点。あれだったら、スキンヘッドにしてチロリ被ってた方が絶対いい」
「チロリ...?」
「チロリアンハットって言って、パリのギャンブラー達が愛用したっていう、オシャレ帽の事。」
「へ〜。てか帽子とか、今時被んないよねー。髪型崩れるし、静電気で髪ボサボサになるし」
「まー、そうだね」
言いながら、夏の新作ワンピを手に取る。彼女たちがここにきて既に3時間が経つが、買ったものといえば、未だにファーのついたサンダルだけ。本当に女子の買い物は長い。彼女達はこうして毎週のように店に出向いては、結局買わない日だってある。
「にしてもさすが柚子、デザイナーの卵はコメントが違いますね」
「それほどでも〜」
「謙遜なしかい」
先程から点数を付けている少女、佐野山 柚子は、デザイナーを目指す高校1年生。親には猛反対されているが、何らかのデザインをして、世界的に有名になるのが彼女の夢だ。アバウトといえばアバウトな夢だが、祖父が昔、帽子や革ベルトのデザインをしていたというのもあり、その影響を受けてのことだった。そして、隣にいる明るめの髪にピアスをつけた少女が沙夜。ショートカットで濃いめのメイクをしっかり決めているのが瑠美。2人とも柚子と同級生でそれぞれ、読者モデル、メイクアップアーティストという夢がある。
「それで?やっぱファッションデザイナーになるの??」
「んー、デザイン出来るものなら何でもいいんだよね〜」
沙夜からの問いかけに、曖昧に答える柚子。
「インテリアデザイナーでもいいかもよ」
「確かに、それもアリ」
そんな事を話しながら、ふらりふらりと別の店へ移る。
「そう言えば柚子、今年の夏休みどうする?デザイン画の展示場見に行くとか言ってなかったっけ」
「あーうん、そのはずだったんだけど、田舎のおばあちゃんが病気がちでさー。じーちゃん死んじゃってから1人だし、見ててあげなきゃいけないんだよね。」
「そっか、じゃー今年の夏はずっとそっちにいるの?」
「多分ね。」
柚子と瑠美が話していると、いつの間にか2軒先の店に行っていた沙夜が、何かを手にして声をかける。
「2人ともー!ジュノルの新作ワンピ出てる!」
今年流行りであるオフショルダー仕様のワンピースを手に、ぴょんぴょん跳ねながら、まるで小さな子供のようだ。
「はいはい、今行くー!」
瑠美が手を振って答える。
「ほら、行くよ柚子」
「うん」
3人はまた、終わりの見えない洋服探しへと戻って行った。