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Kirakira◇Nine  作者: 葉月挧
3/3

3話 とにかく、このチームを私たちでなんとかしましょ

「決まりですわね」


「あれ・・・?そうなる・・・?」


気づいたら、熱中していた。そりゃしょうがない。大好きな野球が目の前で行われているんだから。


判官贔屓や、自分の通う高校であったこと、それに彼女たちの、何点差が開こうが諦めない目。それらすべてをひっくるめて、玲凌高校の女子野球部を応援していた。


「やはり私の目に狂いはなかったようだわ。草野大地、今日からあなたはこのチームの監督よ」


「ははぁ・・・。つか俺一度も名前名乗ってないのに、俺の名前知ってるんすね・・・。前も訊いたけど結局お前の名前はなんなんだよ!」


改めて謎の美少女に名前を訊く。もう、女子野球部の監督になるしかなさそうだ。


「そうね。別に私の名前なんてどうでもいいことだけど、知っておいた方が少しばかり便利かもしれないわ。私は野球部の部長に就任することが決まっている輪花(りんか)あやかだわ」


眼前の美少女はとうとう名前を名乗った・・・。しっかし変わった名前だな。って、部長?


「部長って教員にしかなれないんじゃないのか?」


俺の言葉を聞いた彼女は自身の口元に指を当てて「しーっ」のポーズをとる。


「それ以上、言ってはいけないわ」


監督も部長も誰も引き受けなかったんですね。このチーム。


「とにかくこのチームを私たちでなんとかしましょ」


「おうっ!そうだな!」


そして彼女は一呼吸おいて・・・。


「あと私、野球のことはほとんどわかりませんわ」


思わずズッコケた。私たちでなんとかしましょとか言っておいてほとんど知らないのかよ。


「毎週月曜日は、部活動はお休みなので明後日の火曜日から、学校の近くにある水森(みなもり)グラウンドまで来てくださいます?」


「まあしゃーなしだな。監督、引き受けてやるよ」


そうして俺は玲凌高校女子野球部の監督となった。




火曜日の放課後。約束の場所である水森グラウンドまでやってきた。なんつーか小学生が草野球なんかをやってそうな空き地を少し大きくしたようなレベルのグラウンドだな。とても真面目に野球をする人たちが野球をする環境ではない。


「来てくださいましたね」


「おうよ」


謎の美少女もとい輪花さんが、いつもと同じように艶やかな声で俺に話しかけてきた。


「それでは、皆さんの元に言ってみましょうか」


そう促され、俺は歩き出す。あのキラキラした目を持つ彼女たちの元へ。


精力的に練習に励んでいる選手たちではあったが、俺の存在に気づくと練習を止めて、俺をじっくりと見つめ始めた。数十人から一斉に視線を浴びるのは少し緊張するなあ。


「あやかっち!ちわっす!」


ほかの選手とは違ってユニフォーム姿ではなく、学校指定の紺色のジャージを着た女の子が輪花さんに挨拶をした。


「こんにちは一実さん」


どうやらこのジャージの女の子は一実さんと言うらしい。


「あやかっち、隣の男の子は?」


「私たちが求めていた理想の監督よ」

その言葉を聞き、一実さんの顔が一変した。和やかな顔から目を細め、真剣な顔つきになって俺の顔を覗き込んで見ている。


「君が・・・監督をやってくれるのか!?」


「そう言うことになってしまいましたね。初めまして。俺、草野大地って言います」


自己紹介をすると、一実さんはプルプルと震えはじめた。握った両手には最大の力が込められている気がする。


「やったぁぁああああああ!!とうとう監督が見つかったぜぇぇええええ!!」


梅木さんは強く握った両手を天高く挙げて、思いっきり万歳をする。そこまで喜んでもらえるとは・・・。


「おーーーーーい!!みんな集合だぁ!監督が来たぞぉぉおおおお!!」


一実さんが大きな声で選手たちを集める。なんつーか暑苦しい人だな、一実さん。


一実さんの声を聞いて、選手たちが集まってくる。一昨日、球場の中で観たキラキラした目を持つ彼女たちだ。


「へぇー、そこの男の子がそうなんだ」


「何年生ー?」


「名前はー?自己紹介はよー」


「好きな盗塁王はー?」


滅茶苦茶ざわざわしてきた。俺は聖徳太子じゃないし全部聞き取れねえ。とりあえず自己紹介した方がいいか。


始めが肝心。大きく息を吸い込んで、しっかりとみんなに聞き取れる声量で答えてやるぜ。


「初めまして!玲凌高校二年!草野大地です!好きな盗塁王はレッドスターだ!」


「「「おおー!!」」」


彼女たちが歓声を上げる。掴みはOKって感じだろうか。


「はい、これ。練習用のユニフォーム」


輪花さんから、真っ白なユニフォームを渡される。


「私の目算で身長を測ったけど、多分大丈夫だと思うわ。着替えは向こうに倉庫と小屋が並んでいるから、倉庫で着替えてちょうだい。小屋は男子禁制ですから」


なんか男子禁制って響きいいよな。俺は決して破ったりはしないはずだ。・・・言い切れないな。


とりあえず指差された方向に歩いて行くと確かに倉庫と小屋があった。倉庫には野球用品がびっしりと詰まっていた。なるほど設備は結構しっかりしてんだな。


すると、倉庫になにかを取りに来たのか一人の女の子がやってきた。


「あっ、監督さん。初めまして!わたし、星山楓です!二年生です!よろしくお願いします!」


「いやいや、こちらこそよろしく」


星山楓、二年生。栗色のショートボブのちっちゃな女の子だ。一見小学生や中学生に見えてもおかしくないほど、ちっちゃくて、かわいらしい女の子。黄金色の瞳に、ぱっちりとした大きな目が特徴だ。ユニフォームがダボついていて、ユニフォームに着られている感が出ている。


確か、一昨日の試合ではこの子は出ていなかったかな。補欠なんだろうか。


さて、俺もユニフォームに着替えて練習を見に行くとするか。

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