表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Kirakira◇Nine  作者: 葉月挧
2/3

2話 けど、まだ諦めてないみたいだよ

そして、約束の日曜日がやって来た。


俺や妹が通っている玲凌(れいりょう)高校。その玲凌高校から歩いて30分ほどの場所にある市営の平野(へいや)球場が今日試合の行われる球場だ。


「別にお前は来なくてもよかったのに」


球場には一人で行くつもりだったのだが、隣を歩く妹。どことなく嬉しそう。


「だってお兄ちゃん、逃げるかもしれないもん」


なかなかしつこい妹だ。まあ試合はちゃんと観るさ。観てから何かといちゃもんつけて拒否させてもらうけど。


しかし球場の外を歩いているのに野球部特有の威勢のいい男たちの声が聞こえない。おいおい今日、本当にここで試合があるのか?そんな体たらくじゃ甲子園なんて行けねえぞ。


そんなことを思いつつ、球場に入り、内野席からグラウンドを覗いた。


そこから見えた光景に、俺は度肝を抜かれた。


えっ・・・!?思っていたのと違う。は・・・はぁ?みんな・・・女の子じゃねえか!?


試合前のシートノックを打つ女の子。そしてノッカーの放ったボールを捕って一塁に送球する女の子。捕球する一塁手ももちろん女の子だ。


「え?女の子じゃん・・・」


呆然とする俺。これ以上何も言葉が出てこない。


「あら、言っていませんでしたっけ?あなたには女子野球部の監督を依頼していたのだけど」


「はぁぁあああああああああああ!??」


野球場に俺の叫び声が轟いた。


そして女子野球部の監督を依頼していたと言った、横にスッと現れた女性は、この前俺を踏んでいた謎の美少女だ。いきなりの登場でビックリしたわ。つーか何者だ、この人。


俺が女子野球部の監督!?完全に男の方だと思ってた。そもそもうちの学校に女子野球部があることすら知らなかった。


「おいおい女子野球部って・・・。それこそ俺でいいのか?」


「ええ・・・不本意ながら、あなたに頼むほか、後任がみつけられなくて」


不本意って・・・俺、今すぐ断ってもいいかな。


「もちろん最初は教師に限定して探していたわ。けれど引き受けてくれる方は現れず、藁にもすがる思いで一般生徒にまでその触手は伸びたわけだわ」


「俺って藁なんだな・・・」


「そうでもないわ。しっかり条件だってあるのだから」


「へぇ・・・条件か。どんな条件なんだ?」


その俺の質問に謎の美少女は間髪を容れずに答えた。


「第一に、暇を持て余していること」


「ははぁ・・・」


そんな理由で俺が公認候補としてリストアップされていたのか・・・。


「それが第一の条件というのは嘘よ」


謎の美少女は妖艶に言葉を発する。何かしらエロスを感じる。


「第一の条件としては野球のルールを知っていて、野球が大好きなことよ。いくら暇人でも野球をまったく知らない人には任せられませんから」


なるほどなぁ・・・。たしかに、俺は野球を愛する気持ちは人一倍強いと自負している。


「そろそろ試合始まるみたいだよ!」


妹の言葉を聞き、目線をグラウンドの中に移すと、確かに両チームがベンチの前に現れていた。審判の「整列!!」という掛け声が掛かると、両チームの選手が勢いよく飛び出していった。これは高校野球ならではだよなぁ。


今日は我が玲凌高校の主催試合なので玲凌高校は後攻めとなる。相手は五十鈴学院という高校だ。


女子野球自体、生で観るのは初めてだ。一体どんな試合になるのだろう。


一回の表、五十鈴学院の攻撃は、それはもう圧巻の一言だった。打者一巡の猛攻で初回一挙6得点。


先頭打者の初球を捉えたセンター前ヒットを皮切りに、二番打者がきっちりと送りバントを決めて得点圏にランナーを進め、三番打者が左中間を破るタイムリー。四番打者には柵越えホームランを打たれた。女の子って凄いんだな・・・。


そして出鼻をくじかれた玲凌の先発投手はその後、下位打線にも集中打を食らい、6失点。


対して、初回の玲凌の攻撃は三者三振と五十鈴の投手に手も足も出ないといった感じだった。


そしてその後も玲凌は失点を重ねていく。二回に4点・・・三回に2点・・・四回に1点、五回には7点・・・。玲凌は未だにヒットすら出ない。20-0という大量得点差をつけられていた。


「コールドゲームだ。帰らしてもらうぜ」


そう提案するが、謎の美少女に首をかしげられた。


「コールドゲーム?そんなものは雨天時しかありませんよ。得点差によるコールドゲームはありませんから」


いやいや試合はどうやったってもう、勝ち目はない。単純に言えばレベルが違う。運で20-0になってる訳じゃない。玲凌の選手の実力不足だ。


「どうせこの点差じゃ勝てないよ」


「けど、まだ諦めてないみたいだよ」


妹の言葉でグラウンドに目を移すと、六回の表の守備につく玲凌ナインの目は確かに死んでない。選手たちはまだ目をキラキラと光らせて相手に向かって行っているように見える。20-0というスコアの中でどうして集中力を切らさずにいられるんだ。この点差、もう諦めてしまう点差だろうに。点差だけじゃない、実力差だって明白。ここから勝つなんて到底不可能なのにもかかわらずどうして、そんなキラキラした目ができるんだ?


分からない・・・。このチームが分からない。ただし一つ言えることは玲凌高校の女子野球部は弱いということだ。


試合はどんどん進んでいく。六回にも失点、七回にも失点、八回にも失点。対してこちらはまだヒットすら・・・いやランナーすら出ない。このまま為す術もなくパーフェクトを食らってしまうのだろうか。


だが、まだ玲凌ナインの、彼女たちの目は死んでない。何点差を広げられようが、一生懸命、真摯に試合に、相手に、向かっている。


そして九回の表に今日初めて、五十鈴学院を三者凡退に抑えた時に俺は・・・。


「っしゃぁぁあああああ!!」


立ち上がって、声を荒げて、喜んでいた。あれ・・・?


パーフェクトを食らいそうだった打線も九回の裏の攻撃で、フォアボールながら初のランナーが出ると、送りバントで一死二塁の場面で一二塁間を破るライト前タイムリーが飛び出すと再び・・・。


「ナイスバッティン!!」


めっちゃ応援していた自分がいた。


結果はその後打ち取られて五十鈴学院に大敗を喫した。だが、俺の心は凄く揺さぶられた。このチーム、弱いけど面白い。


このチームが勝つところを観てみたいと思ってしまったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ