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変神 - へんしん -  作者: ぼを
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第9話 変わらない物?

 ある日、普段と同じように六時前にシーナを迎えに行くと、彼女はすでに仕事を終えているようで、店の前に居た。ただ、独りではなかった。彼女の前には、一人の背の高い青年がおり、二人は向かい合って何やら話をしているようだった。青年と僕とは面識がない…。僕はシーナに悟られないように、影から二人の様子を窺った。自分で、鼓動が異常に早くなるのが解った。青年は、随分と美形だった。洋裁店の店員という様子ではなかったが、街の人間ではあるようだった。決して地味ではない服装を見ると、どうやら水商売に従事する人間のようだ。少し吐き気がした。ただ、僕は、二人の間で交されている会話が決して、僕の存在を脅かすような内容でない事は解っていた。けれど、どうしても会話を意識して頭に流し込む気になれずに、必死に聞き流した。そして、二人が別れるのを待った。別れたら、僕は何も見なかったふりをしてシーナを迎えに来た事にすればいいと思った。が、教会の午後六時の鐘が響いても、青年はシーナから離れる様子がなかった。どうやら、僕が迎えに行くまでシーナは青年と離れる予定はないらしい…。然し、彼女はそんなに理解のない人間ではなかった筈だ。他人の感情を掻き乱す事を嫌っていたし、誰かを傷つけてしまった時に一番傷つくのは彼女自身だった筈だ。だから彼女は、僕が現れた時に彼女が僕以外の、而も美形の年上の青年と楽しげに会話している所を僕が目撃したら、非常な打撃を被る事は良く解っている筈だ。彼女は一体、何を考えているんだ…。

 会話は聞き流して、二人の表情だけを覗き込んだ。シーナは絶えず笑みを漏らしながら、時々、口許や、染まった両頬に手を当てたりした。僕の知っているシーナでは、少なくともなかった。

 僕は、影に隠れながら、どう行動を起こすべきかを悩んだ。なんだか粘液質の霧が僕の感情を取り巻いて、がんじがらめにしてしまった。悪い事しか考えられなくなっていた。如何にも、たった今彼女を迎えに来た、とか、青年に景気良く挨拶をする、とかをする気力は、到底なかった。僕はその場にしゃがみこんで故意に頭を両腕の中に沈めると、何もする気が起きなくなってしまった。ただ、呆然としてぼやける意識の遠くの方で、シーナの高い声と、青年の流れる声とを重ねあわせ、響かせていた。シーナが僕の知らない美形の青年と会話を愉しんでいる、ただそれだけの事なのに、目頭が急に重くなり、目許が湿った。鼻の奥が引きつったようになり、胸と喉の間あたりが詰まったように痛んだ。けれど、今は堪えなくてはならない。シーナを、シーナを機織小屋まで送り届けなくてはならないのだ。

 六時の鐘を聞いてから、大分経った。二人はまだ話していた。僕は自分の指と指の隙間から、二人を見た。どちらも異常な美形で、一対の人形の様でもあった。そして、僕はまた、彼女は僕なんかの好い人であるべき人間ではなく、あのような、器量も金もある男と対等に交際できる程度の人間なのだ、と、自分自身を諭した。だから、お前などには、あの二人を邪魔する権利などはないのだ。お前とシーナとは、既に違う世界で生きている人間なんだ。

 示しがつかないとは思ったが、教会が午後七時の鐘を鳴らしても二人が会話を止めないのを確認してから、暗い夜道、独りで自分の部屋へと戻った。不甲斐なさに啼いた。


毎日、午前7時頃に更新予定です。

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こちらの小説も是非ご覧ください。↓↓↓


「少女になったボクは、少年になったキミに恋をする」

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