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変神 - へんしん -  作者: ぼを
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第7話 新しい顔

 翌日、僕は落ち着かなかった。普段通りに鍛冶手伝いの仕事をするのだが、明らかに集中力を欠いていた。というのも、シーナがケイトと共に、顔を綺麗にしてくれるという魔術染みた商売人の所へ行ったからだ。つまり、今日僕が仕事を終えて機織小屋を訪れれば、そこには僕の知らない美形の少女の顔が存在する、という事なのだ。

 ケイトは、どのような方法で顔を綺麗にするのかを教えてくれなかった。もしかすると、彼女自身も知らないのかもしれない。でも、確かにそのような方法が存在し、そしてシーナが綺麗な顔を手に入れる、という事だけは確かなようだった。

 僕は、教会の鐘が午後五時を告げて仕事から解放された後も、なかなか機織小屋に向かう事が出来なかった。陽が落ちる時間が以前に比べて長くなっていたので、まだ空は明るかった。僕は、わざと回り道をしたり、ゆっくりと歩いたり、道を戻ってみたりして、時間を潰した。機織小屋の近くまでやって来た頃には、自分でも心拍数が高いのが解った。

 僕は大きく深呼吸をし、心に風を送ってから、機織小屋の扉を叩いた。普段は何の了解も得ずに勝手に開けるのだけれど、今日はそういう気にはなれなかった。

 小さな木製の扉の向こうから、シーナが返事する声が聞こえてきた。それから、ちょっと待って、今開けてあげる、と、ケイトの声が聞こえてきた。

 扉が少し開いた。ケイトが、顔を覗かせた。何時もの薄笑みを僕に向けると、また顔を引っ込め、あっちを向いてな、とシーナに向かって言った。暫く焦らされてから、僕は中に入れられた。

 シーナは、僕に後姿を見せて立っていた。変わったのは顔だけな訳なので、後ろだけ見たら以前のシーナと全く変わらない…。

「振り向いていい?」

 シーナが言うと、ケイトが、駄目駄目、もう少し焦らしてあげて、などと言った。僕はいい加減我慢がならない気がしていたが、多少、期待もしていた。

 やがてケイトが、もういいでしょ、と言い、シーナは振り向いた。そして、僕と一瞬だけ視線を合わせたかと思うと、頬を染めて俯き加減になり、上目遣いになった。

 シーナは…なんというか、シー

ナじゃなかった。声はシーナだった。後姿もシーナだった。けれど…明らかに、それはシーナではなかった。先ず、雀斑が全く無くなっていた。それだけで全然印象が違った。目は以前よりも大きくなっており、瞼が二重になっていた。鼻は小さく見えたが、筋が高く通っており、瞳との調和が非常によく取れていた。唇は、下唇が少し厚くなった感じで…なんというか、もう、シーナではなかった。もし今日、僕がこの機織小屋ではなく、街中で彼女とすれ違ったのなら、間違いなく僕は彼女をシーナだと判断することは出来なかっただろう。それほどまでに、彼女の容姿は変わってしまった。

 確かに、美形になっている。僕の目から見ても、今までに見たことのない程の器量好しだ。ケイトよりも綺麗に見える。この容姿で人通りの多い街道を歩こうものなら、多数の男達がその愛らしさ、美貌に振り返り、溜息を吐くだろう…。事実、僕も無意識の内に溜息を吐いてしまっていた。

 シーナは相変わらずの上目遣いだった。

「どう…かな?」シーナが、元のシーナの声で言った。なんだか違和感がある…。「綺麗になったでしょう?」

 僕は、得心の行かない部分が自分の中にあるのを認めながらも、取り敢えずそのような感情を脇へ押しやって、彼女の美貌を称えてやった。

「なんだかよく解らないけれど…」僕が言った。「確かに、凄く綺麗になってる…。シーナじゃないみたいだ…」

 シーナは微笑んだ。その顔がまた、異常に綺麗だった…。

「でも、わたしなのよ」

 僕等は並んで小屋を出た。ケイトは、今日はこれからまだ仕事があるからと出て行ってしまったので、少し散歩をしようと思ったのだ。

 突然、無双の美貌を手に入れた女性を隣にして、僕はなんだか落ち着かなかった。その為か、どうしても彼女をシーナだと思い込む事が出来なかった。彼女の顔を見ると、まるで別の女性なのだ。僕なんかが付き添い出来るような女性じゃない…そう思ってしまうのだ。それで、僕は内心、随分混乱していた。然し、あんまり整理がつかないので、帰宅してから考えようと思った。

 シーナは歩きながら、明日は洋裁店の採用面接をもう一度受けてくる積りだ、と話した。僕は上の空のまま、採用されるといいね、と返した。彼女は幾度となく僕の横顔を覗き込んで来るようだったが、僕は彼女の顔をなかなか凝視できなかった。

 それほど言葉を交わさない内に、僕等は別れた。

 部屋に戻ってから、僕は寝台に突っ伏した。そして、暫く泣いた。殆ど無意識の涙だったが、その理由はなんだかすぐに自分の中に探れるような気がした。けれど、あえて探さなかった。理由の曖昧な涙を、暫く流していたかった。

 僕は心の奥底で、シーナは死んでしまったのだ、と思った。


毎日、午前7時頃に更新予定です。

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こちらの小説も是非ご覧ください。↓↓↓


「少女になったボクは、少年になったキミに恋をする」

http://ncode.syosetu.com/n5689dl/

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