第4話 秘密の方法
シーナを機織小屋まで送って行った帰り道、僕はケイトと会った。どうやら、僕等が帰って来るのを見計らって機織小屋に向かったらしかった。
「どうだったの?」ケイトが訊いてきた。僕は、かぶりを振った。「不採用だった理由は?」
「よく解らないけれど…」僕が答えた。「心配していたとおり、顔についてなにか言われたらしいね。華がないとか、なんとか」
ケイトは薄笑みを浮かべた。
「シーナは機織小屋だね? いいわ、解った」
「まだ泣いているようだから、そっとしておいてあげて欲しいな」
ケイトは首肯した。
「貴方も、あとで『太陽亭』に来てくれないかしら? そうね…教会の午後の鐘が六回鳴った頃くらいに」
僕には彼女が何をしようとしているのかが解らなかったが、取り敢えず了解して別れた。
普段の鍛冶手伝いの仕事のない休日は結構暇で、約束の時間まで特に何をするでもなく、シーナの事を心配しながら、ぶらぶらとしていた。
時間になってから一度自分の部屋に戻って金をとって来、「太陽亭」に向かった。
丁度夕食時でもあるので、狭い店内は結構な賑わいで、僕はケイトを探すのに一苦労した。が、向こうから僕に気付いて手を振ってくれたので、僕はそちらに向かった。勘定台に一番近い四人掛けのテーブルに、ケイトとシーナが向かい合って座っていたので、僕はシーナの隣に腰掛けた。二人は夕食をとっているところで、テーブルの上にはパンとスープと洋杯が置かれていた。僕は適当にパンと腸詰を注文してから、ケイトと向かい合った。シーナはもう笑顔を取り戻している様だったが、なんだか無理に元気にしているようにも見え、やはり僕は心配だった。
「何の用だったんだい?」
僕がケイトに訊いた。彼女は薄笑みを浮かべて、頷いた。
「シーナには既に、少しだけ説明してあるのよ」ケイトが言った。「でも、いきなり話を始めるのもなんだわね」
言って、ケイトは店員に洋酒を三つ注文した。
「僕は飲む気はないよ」
「あたしの奢りよ」ケイトが言った。「少し飲んだ方が舌がよく廻るでしょう」
「奢らせるのは悪い」僕が言った。「自分で払うよ」
ケイトはかぶりを振った。
「あたし、貴方が思っているよりもずっと、ゆとりがあるのよ。まあ、いいから」
三杯の洋酒を持ってきたのは、友人のアンネッタだった。彼女は僕等に洋杯を配りながら、ケイトも一緒とは珍しいね、と言い残し、調理場へ消えていった。
僕等はシーナの健康と前途に乾杯した。酒に慣れない所為もあって、飲み干す事は出来なかった。すぐに廻ってくるのが解った。
「それで話なんだけれど」ケイトが言った。「貴方には、直接は関係ないの」
では、何の為に僕を呼び出したんだろう…。
「シーナに関係する事?」
僕はシーナの方を見ながら、ケイトに訊いた。首肯したのはシーナだった。
「貴方にも、了解を得ておこうと思って」シーナが言った。「ケイトが貴方を呼んでくれたの」
僕はまたケイトの方を見た。
「取り敢えず、貴方は何も話しては駄目よ」ケイトが言った。「あたしの話だけを聞くこと」僕は首肯した。ケイトは満足そうに笑みを漏らした。「まず、今日の事ね。今日、シーナは洋裁店に採用の面接に行った」僕は、頷いた。「それで、不採用にされてしまったのよね」
僕はシーナを見た。彼女は少し俯き加減で、頬を染めていた。「理由は、シーナの顔が地味だから。店の雰囲気にそぐわないから」
「ちょっと言い過ぎじゃないか?」
「黙っていて、っていったでしょう」僕の言葉に、ケイトが返してきた。「それで、あたしはシーナに提言したの」ケイトはシーナに視線を向けた。僕も、彼女の方を向いた。「シーナを、誰もが認める位に器量好しにする方法がある、という事を」
「なんだって?」
思うより先に、言葉が出てしまった。大きな声で叫んでしまった訳ではない。割と落ち着いて、そう言ってしまった。
僕はも一度シーナを見た。彼女は僕に微笑を向けると、小さく頷いた。
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