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変神 - へんしん -  作者: ぼを
13/15

第13話 本当は知りたくない事

 すぐに部屋に戻る気にはなれなかった。独りでいると、余計に自分が惨めな気分になる事が解っていたからだ。だから、部屋には向かわずに、「太陽亭」に向かった。

 夕食時ではあったけれど、客はそれ程多くなかった。僕は半ば倒れこむかの様に、一番小さなテーブルについた。

 アンネッタが、心配そうな表情を浮かべて注文を取りに来た。僕は、適当に酒を持ってきてくれるように言った。アンネッタは小さく溜息を吐くと、すぐに洋杯を、二つ持ってきてくれた。

 彼女は僕の向かいに座ると、片方を僕の前に、片方を自分の前に置いた。

「優しいんだな」

僕が言った。

「何があったのか、訊いていい?」

 アンネッタが、酒を飲みながら言った。僕は一息に呷ると、野暮だよ、と返答してやった。

「シーナを」僕が言った。「見たかい?」

 彼女は首肯した。

「羨ましいくらい綺麗だったわ…」アンネッタは、他の店員に、酒を壜で持ってくるように言いつけた。「でも、随分お金が掛かったそうね」

 僕は頷いた。壜が運ばれてきたので、自分で洋杯に酒を注いだ。

「ケイトに借りた、って言うんだ」僕は、一口だけ酒を入れた。「一体、どこにそんな金があったんだか…」

「私はまだ聞いていないんだけれど」アンネッタが言った。「シーナは、そんな大金をどうやってケイトに返していく積もりなの?」

 僕は、さあ、と呟いた。

「洋裁店の給料の一部をケイトに渡して、十年だとか言ってたな」

 アンネッタは、苦笑した。

「十年も続くと思う?」

 僕はまた、さあ、どうなんだろうね、と答えた。

「でも、ケイトは…」僕は言葉を切った。「ケイトもシーナと同じ方法で器量好しになった、って話は、聞いてる?」アンネッタは首肯した。「でもケイトは、それだけの金額を二年以内には返してしまったとかなんとか…」

「それは…」アンネッタが少し声を張り上げて言った。「貴方、ケイトが何の仕事をしているか知らないの?」

 僕は、知らないと言った。

「織り娘以外にも、何か仕事をしている事は聞いていたけれど…」

 アンネッタは、僕から視線をそらすと、大きく溜息を吐いた。

「彼女ね…」彼女は声を潜めて、言った。「街で、売春をしているのよ…」

 僕は、血の気が引きはしなかったと思う。ただ、その言葉を聞いた瞬間に、シーナとケイトを重ねてしまったのは確かだった。

 僕は何も言わずに、洋杯に残った酒を飲み干すと、立ち上がり、テーブルの上に適当な金額を置いた。アンネッタの不憫そうな表情が印象的だったが、早足に店を出た。出たけれど、行く当てがある訳ではなかった。

 酔いに任せて、故意に意識がないように自分に言い聞かせて、夜の道を彷徨った。


 夜中、自分の部屋に戻ってから、僕は暗い部屋で独り、巻貝の耳飾を金槌で粉々に砕いた。


毎日、午前7時頃に更新予定です。

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普段はボカロPをやっています。

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こちらの小説も是非ご覧ください。↓↓↓


「少女になったボクは、少年になったキミに恋をする」

http://ncode.syosetu.com/n5689dl/

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